そんな中、転機が訪れた。
あの日は、雪が降っていた。
放課後そのことに気づいた俺は、傘がなくて、一人でただ無心に空を見つめていた。
「ぅあの、すみません……っ!」
鈴を転がしたような声がして、俺は振り返った。
──第一印象は、リスみたいな子、だった。
大きな目の割に小さい顔と小柄な体、絹のようにフワリとした茶色がかった髪。
一瞬後ろにリスの大きい尻尾が見えたほどだった。
ただ、その時はいつものように顔目当てで話しかけてきたのだろうと思った。
「?」
「う、あ、あの、傘ないんですか……?」
「ああ、朝忙しかったから。雪やむまで待とうかなって」
「……っ、どうぞ!」
「え」
そう言って彼女はおずおずと持っていたビニール傘を差し出した。
傘を差し出して優しい子アピールをしたい……そういう女子は山ほどいたけれど、目の前の子にはなぜかそう思えなかった。



