途中で抜けて出口から外に出た、時だった。
「琳斗っ、私琳斗のこと……」
聞こえたそのいつになく甘い声に、私は気づいたら顔を向けていて。
心臓が、これ以上にないほどドクリと嫌な音を立てて。
──「世界で一番大好きだよ」
見てしまったんだ。
頰が紅潮した十六夜さんに抱きつかれている高峰くんの後ろ姿を。
その瞬間に、とうとう確信してしまったんだ。
私は、高峰くんのことが好きだったんだと──。
それからどうやって帰ったのか覚えてない。
気づいたら大量の涙が頰をつたっていて、驚いた顔をしたお母さんに「なんでもない」と笑顔で伝えて。
止まることを知らないまま部屋の床にポタポタと落ちる雫を見ながら。
私は決心した。
「好き」を諦める方法が一つだけある。
「高峰くんは、──」
呪文のように呟いた。
「──この世で一番かっこいい、"推し"」
気づいたら、涙は止まっていた。



