きみがいた帰り道

「でも、ちゃんと話すと真面目だし、
一生懸命で、不器用で、そういうとこ……すごく、いいと思うよ」


「……ほめてんのか、ディスってんのかどっちだよ」


「ほめてるの! ちゃんと」

 


小さく笑い合ったあと、また少しだけ静かになった。
空気が、少し柔らかくなった気がした。

 


「……花奈は? なんで文学部に?」


「私?」


花奈は少しだけ考えて、言葉を選ぶように口を開いた。

 

「……たぶん、昔は逃げたかったんだと思う。
現実が、ちょっとだけしんどかったから」

 

「……」

 

「でも、物語の中なら、自分じゃない誰かになれて、
その人の気持ちになれるでしょ?
悲しいこととか、嬉しいこととか、ちゃんと理由があるから」

 

「……うん。わかる気がする」

 

「今はね、逃げてるわけじゃないよ。
ここで、ちゃんと“自分として”生きたいなって思ってる」