きみがいた帰り道

あれから、なんとなく、2人でよくいる。

講義のあとに図書館へ寄ったり、カフェでレポートをまとめたり。


別に“特別な関係”じゃない。でも。


誰かに見られると、ちょっとだけドキッとする。


花奈は気にしてないふうだけど。


「この本、好きそうだと思って」


花奈が差し出したのは、厚めの文庫本だった。

タイトルはどこかで聞いたことがある、有名な海外の文学作品。


「……あ、これ……たぶん読んだことある」


「うん。だから“好きそう”って思ったの」


花奈は、少し得意げに微笑む。

その笑顔に、思わず苦笑しながら表紙を指でなぞった。

 

「人の趣味を読むタイプ?」


「ううん、たまたま、かな。
でも颯磨くん、セリフの少ない本、よく読んでるよね」


「……そういうのが、落ち着くっていうか。黙ってても物語が進むのが好きなんだよな」


「……わかる、かも」