きみがいた帰り道


「お、なんかいい雰囲気〜?」


由希のからかい気味の声に、ふたりして同時に「ちがっ!」と返す。


「いやいや、冗談冗談。けど、わかりやす〜」


「わ、わかりやすくなんてないよ……」


「はいはい、そろそろ講義の時間だし、行こっか〜」

 

立ち上がった由希に続いて、俺たちも席を立つ。


帰り際、自然と花奈と歩く距離が近くなっていた。


「……あの、また……話せたら、うれしい」


「うん。俺も、また」


それだけの会話なのに、なぜか心臓の鼓動が少しだけ早くなる。



──名前を覚えたばかりの相手なのに、不思議だった。

 

まだ知らないことだらけなのに、
その“知らなさ”が、ちょっとだけ楽しいと思った。