【不器用な君はヤンキーでした】

翌日の放課後。
私と瀬那は、駅前のカフェにいた。

いつものファストフード店じゃなくて、ちょっと落ち着いた雰囲気の小さなカフェ。
「静かなとこがいいな」って、瀬那がぽつりと言ったから。

 

「昨日の夜、緊張した?」

「……正直、めっちゃ汗かいた」

「うちのパパ、怖かったでしょ」

「いや……怖いっていうより、“ちゃんとしてる”感じだった」

 

瀬那は、ストローで氷をかき混ぜながら、ゆっくり言葉を選んでいた。

「叶愛の家、あったかいなって思った。みんなが自然で……自分の居場所がちゃんとある、って感じ」

 

私はそれを聞いて、少しだけ胸が痛んだ。

 

「……瀬那」

「ん」

「昨日、家に帰ってからね。……私、少し考えた」

「なにを?」

 

「私たち、家も育ちも全然違うけど……それでも、“ふたり”で作れるものってあると思うの」

「……ふたりで作るもの?」

「うん。家族じゃないけど、“新しい形”っていうか……。言葉にするの難しいけど……」

 

瀬那は、少し黙ってから、目を細めた。

「叶愛って、たまにすごく大人なこと言うよな」

「え?」

「……俺さ、小さい頃から家ってものがずっと重たかった。親は金持ちで、家もでかくて、見た目だけなら何も不自由なかった。でも……ずっと、居場所がなかった」

 

「……」

「父親は“俺が家の恥だ”ってよく言ってたし。母親は、俺の目もちゃんと見たことない」

「……そんなの、ひどいよ」

「でも……叶愛の家に行って、思った。あの空気に触れて……“こういうのが、本当の家族なんだろうな”って」

 

私は、その言葉の重みを、ただ静かに受け止めるしかなかった。

 

「瀬那」

「なに」

 

「……怖かった?」

 

瀬那は少しだけ黙って――それから、ぽつりと。

 

「うん。すげえ怖かったよ。……だけど、羨ましかった。俺もあんな風に笑いたかった。……叶愛の隣で、自然に」

 

その言葉に、胸の奥がギュッとなった。

私は、そっと彼の手に自分の手を重ねる。

 

「なら、一緒に作ろうよ。……そういう場所。私と瀬那で」

 

「……うん」

彼の返事は短くて、でもすごく真っ直ぐだった。

 

* * *

 

カフェを出たあと、いつもの帰り道を歩く。
途中、瀬那が少し黙ったままだったから、私は聞いてみた。

 

「……なにか、考えてる?」

「……実はさ、昨日、家に帰ったあと。親父から電話が来た」

「えっ?」

「なんか、久しぶりに“家に顔出せ”って。……親父が、そんなこと言うなんて、滅多にないんだ」

 

「行くの……?」

「……迷ってる。でも、行こうかなって思ってる」

 

「大丈夫……?」

「正直、怖い。でも……叶愛と話してて、思ったんだ。俺、今のままじゃダメだって」

 

「……うん」

「俺、叶愛にちゃんと触れたい。向き合いたい。だから、逃げちゃいけないと思った」

 

その言葉が、とても大切なものに聞こえた。

「……瀬那、わたし、ずっとここにいるよ」

 

「知ってる」

彼は微笑んで、少しだけ私の頭を撫でた。

 

「だから、行ってくる。……俺の過去、ちゃんと向き合ってくる」

 

* * *

 

そして数日後――土曜日。

朝早くに「行ってくる」とLINEが届いた。

そのメッセージには絵文字もなくて、ただ静かに、決意だけが滲んでいた。

 

私は祈るようにスマホを抱きしめて、彼を思った。

(大丈夫。瀬那なら、きっと大丈夫)

 

けれどその日の夕方。

日が沈む少し前。

 

──ピコン。

瀬那からのLINE。

 

【……会える?】

 

たった一言に、私はすぐに「うん」と返事した。

心臓の音が、少し速くなる。

(何があったんだろう……)

 

約束した場所は、校舎裏。

いつも彼と出会った、あの静かな場所。

 

そして、私はそこで、初めて――
瀬那の“泣き顔”を見ることになる。