「やっぱり、当分結婚はできないかもです……」
「は?何言ってんの?」
ドレスを脱いだエリアス様の背後に回り、コルセットの紐を緩めていた時でした。
ふとした私の独り言に驚き、エリアス様が振り向きます。
「誰かと結婚する予定でもあるわけ?」
「なくはない、と申しますか。お話はあるのですよ」
「マジかよ、どこのどいつ?」
「先程オペラに誘ってくださった……レイノルド様です」
「……へえ」
冷たくて低い声でした。
一瞬ゾクリとしましたが、エリアス様は何事もなかったようにこちらに向き直りました。
「もういいよ、ロザリー。後は一人でできる。俺はもう休むから、ロザリーも休みなよ」
「あ……はい。では、おやすみなさいませ、エリアス様」
「うん。おやすみ」
離れる際に、チュッと頬にキスをされてしまいました。
エリアス様からのキス。
普段あまりなさらないので、なんだか照れてしまいます。
自分の顔がカアッと熱くなるのがわかりました。
「ハハッ、顔真っ赤」
「か、からかわないでください!」
「からかってなんかないさ。大好きだよロザリー。だから結婚しないで、俺の側にいて」
とても綺麗で女の私よりも色っぽいエリアス様が、殿方の眼差しで私を見つめていらっしゃいます。
い、いけません!こういう表情をされると、殿方として意識してしまうので本当にいけません!
エリアス様、男性の格好をしたら絶対にカッコいいもの……。
中性的な顔立ちの金髪碧眼だなんて、私の好みのど真ん中です!危ない!
エリアス様はお仕えしているご主人様なのだから、意識なんてしちゃダメなのです。
そう、いくらエリアス様が大好きでも恋はできません。
だから、少しでもお側にいたいのです。やっぱり、私にとっては結婚よりもエリアス様が大事。一番。
側にいてと頼まれれば「喜んで」と答えます。
「はい、喜んで」
笑顔で本心を告げたらエリアス様はほっとしたようなお顔で微笑んでくださいました。
さて、レイノルド様との結婚話、どうやって断りましょう。


