推しが近所に住むなんて聞いてません!〜スペシャルエピソード〜

Ep.2


気がつくと見慣れない天井が目に入った。真っ白い天井は、ここが病院であることを告げていた。
むくりと体を起こすと、サイドテーブルに置き手紙があった。

『大丈夫か?気がついたら電話しろよ 宏樹』

ひろ兄からだ。やっぱり俺はあの時気を失ってしまっていたのか。ひろ兄の店と近いところまで歩いた記憶があるから、多分ひろ兄が気づいてくれたんだろうと状況を理解する。
ただ微かに記憶にある、女性はやっぱり夢だったことに気付かされる。彼女が夢に出てくることは度々あったし、別に特別なことではなかった。ただ、夢に出てくる彼女はいつもあの日の姿で、少し歳をとった彼女が出てきたのは初めてだったのだ。

だからちょっとだけ期待していた。
とりあえず、意識が戻ったことをひろ兄に報告しようと電話した。
ひろ兄は病院内にはいたようですぐに駆けつけてくれた。

「おう、気がついたか。」

「あー...まあ」

「相変わらず、愛想ないなお前。まあいつも猫被ってりゃ仕方ないけどな。検査したけど特に異常はねえってよ。まああれだな疲れてたんだろ。」

…確かに、俺はプライベートとアイドルの時では態度が全然違う。裏表があることは自分でもわかっている。アイドルの時の俺が偽物で、こっちが本物だと思いたいが、二重人格のようにもう一人の人格を作り上げていると、時々どちらが本物の俺なのかわからなくなる。

「まあ、見つかったのがファンとかじゃなくてよかったわ。」
と俺がいうと、ひろ兄は罰が悪そうな顔をする。

「...あーそれがな、見つけたのは俺じゃないんだよ。俺の店にもよくきてくれる、20代くらいの女性…」

「..は?その人誰?もしかしてファン?」

俺はすかさず言葉を遮る。まさか、まさかと期待が膨らむ。

「…ん?ああ、それは大丈夫だと思う。お前サングラス外れてて顔も思いっきり出てたけど、特に何も言ってなかったからな。それに病院について行こうともしなかった。まさかこのご時世お前を知らない変わり者の女性がいるとはな」

ひろ兄はプッと吹き出しながらそう述べた。

「...誰?その人誰!?名前は!?」

いつにもなく俺は必死だった。ひろ兄は若干引い他様子で、

「知らねえよ!...どんだけお礼言いたいんだよ(笑)お前にしちゃ珍しいよな。俺には一言も言ってくれねえのに」

ひろ兄は若干誤解してそうだったが、それでもいい。
とにかく答え合わせがしたかった。

あの夢が、現実だったとしたら…?

違うかも知れない。違うかも知れないのに、俺の期待はどんどん膨らんでいった。