図書係の嘘と恋


今日も図書室のあの奥で、メモ帳が私を待っていてくれる。

そう思うだけで、自分のまわりの空気がほわほわあったかくてキラキラ光ってるような気持ちだった。


放課後の図書室、あの棚の、あの本の影。

小さなメモ帳が、当たり前みたいにそこにいて。

ページを開く前からドキドキしてる私がいる。


こんなの、もう恋じゃん。


心臓がドキドキして、
血が熱くなっていく感じで、

夜、寝るとき、タクミ先輩の夢見たいなって思ってまたドキドキして
朝起きてタクミ先輩はもう起きてるのかなって考えてドキドキして

自分でも自分がコントロールできない。


メモ帳で、いろんなことを話した。



面白かったテレビ番組、TikTokの話題の動画、推しの配信者、ちょっとだけテストの話

先輩の話を聞きたくて、
あんまり興味なかったサッカーの試合もテレビで見た。

先輩が、注目だよって教えてくれた選手が点を取って
自分のことみたいに嬉しかった。


私が、お姉ちゃんとケンカして
それをメモ帳に書いたときも


『わかる、おれも兄ちゃんとケンカするよ。勝手にアイス食ったとかで。すごいムカついて口もきかなくなる(笑)』


タクミ先輩もそういうことあるんだ、って

アイスのことでケンカするんだ、って

タクミ先輩の意外な一面だったし、
それに家族のことを話してくれたのが
一歩、タクミ先輩に近づけた気がした。

私に、話してくれてる。

もしかして、特別、だったりする?

タクミ先輩の“特別”――




(……うわ、もうほんと、やば)


自分の顔が熱くなっていくのを感じながら、私は今日も図書室に向かう。


階段を登っているときのどきどきが

図書室のドアを開けると
トクントクン、に変わって

メモ帳を見つけて
またドキドキになって

そうして、そっと、メモ帳を開く。


『今日、授業中寝そうになった(笑)』


「…ふふっ」

授業中居眠りなんて。
先輩でもそんなことするんだ。


『サッカー部の朝練、大変だもんね。
私も何度も寝て怒られてるよ(笑)』


何でもない言葉の
何気ない会話。

このメモ帳のやりとりだけで
毎日が
なにより私自身が変わっていく。


このやりとりが、
ずっとずっと続けばいいのに。


そう、願ってた。