今日の返事は、昨日よりもさらに長くなっていた。
『サッカーすきだから疲れるってあんまりないかな。勉強は疲れる(笑)
動画はおれもよく見るよ!ゲーム実況とかすきだな。Vtuberとか、お笑い系とかも。そういうの見てるときが癒やしかも。そっちは?推しとかいる?誰?』
文字を追いながら、自然と頬がゆるむ。
わかる、って思った。
何気ないやりとりなのに、
ただの文字列なのに、
すごく優しくてあったかい。
なんだか、タクミ先輩が隣に座ってて、二人でおしゃべりしてるみたいな
「……なんて無理無理」
タクミ先輩の隣になんて座れるわけない。心臓止まる。
私は、何度もそのメッセージを読み返した。
何度も、何度も。
何度読んだって内容は変わらないけど、
読むたびに先輩が微笑んでくれてる気がした。
何度も何度も読み返していて、
文字のひとつひとつを目で追っていって…
そこでふと気がついた。
このペンのインクの色
(これ、もしかしたら……)
灰色がかった、くすんだ青。
人気キャラの限定グッズのひとつだったけど、
色が暗い、キャラのイメージに合わないといって不人気カラーだったみたいだ。
このあたりのコンビニでも売れ残ってた。
私はキャラにはあんまり興味なかったけど、
インクの色が気に入って買った。
角度を変えて見ると、光の加減でちょっとだけ光って見えるのがすきだった。
まさか、タクミ先輩も同じペンを持ってる…?
人気キャラのグッズだし、持っていたとしてもおかしくはないけど…
でももし同じなら?
これ、運命ってやつ?!
(……だめだめ、暴走しすぎだって)
そんなことを思いながら、今日の返事を書いた。
『サッカー部の練習お疲れさま!最近暑くなってきてヤバくない?気をつけてね!
ゲーム実況、私もときどき見るよ。ゲームはあんまりわかんないけど、見てるとおもしろい!
Vtuberも好きだよ、歌い手さんとかも!私の推しはね、……』
私は図書室にあったボールペンで書いてるから、
この“コロッケパン”さんは、同じペンを持ってることは知らないはず。
でも、
同じペンを使い始めたら、なんて言うかな。
気づいてくれるかな。
『キミは誰?』
なんて……そんなメッセージが来たらどうしよう。
うるさい心臓をなだめながら、メモ帳を閉じる。
いつもの場所にメモ帳を戻してから、図書室を出た。
その帰り道、階段を降りた先の渡り廊下。
ちょうど、タクミ先輩と数人のサッカー部員が歩いてくるところだった。
練習が終わって帰る途中なのかな、と思ったとき――
タクミ先輩の、その手元に、あるものが見えた。
私の持ってる、あの限定カラーのペンだった。
私は思わず壁の影に隠れた。
なんでかわからないけど、先輩を見ることができなかった。
自分の足元を見ながら深呼吸、
深呼吸しようとしてもうまくいかない。
心臓がバクバクして、いまにも喉から出てきちゃいそうだった。
本当に、先輩だった……
返事をくれてたのは、やっぱり。
タクミ先輩は、メモ帳の“ジャムパンちゃん”が私だって知ってるのかな
知らなくても……
私は、もっと、タクミ先輩のことを知りたいよ。
私は、
私の心の真ん中に先輩がいることを否定できなくなっていた。
