お昼休み、お弁当を一緒に食べてた親友の茜が言った。
「あ、見て、夏希。あの人もジャムパン食べてる」
茜は、教室の窓から外を指差した。
校庭から校舎の外階段に続く通路を歩いていたのは、3人の女子。たぶん2年生だ。
「ジャムパン…?」
あのメモのことを思い出して、卵焼きをよく噛まずに飲み込んでしまった。
「うん、知ってる?タケ屋のジャムパン、最近めっちゃ売り切れてるんだって」
「え?なんで?タケ屋っていったらメロンパンじゃん。いつも一番に売り切れてるし」
「タクミ先輩がタケ屋のジャムパン食べてたんだって。だからえぐいくらい人気出たみたい」
(……え?)
一瞬、箸と息が止まった。
「ジャムパン食べてた…って、タクミ先輩が?どういうこと?」
「どうもこうも、そのまんま。食べてるとこ見た人、何人もいるらしいよ。それで一気に人気出て、最近ジャムパン売り切れてるんだって。先輩ってなんでも似合うよね〜、ジャムパン食べてても王子様って感じじゃん?」
「……だね~」
茜の言葉への相づちが、不自然になったかもしれない。
……ほんとに?
私がメモ帳に書いた、ジャムパンもおいしいよっていう、あれを読んで?
それで……ほんとに食べてくれた……?
メモ帳のコロッケパンさん=タクミ先輩
これって確定でいいの?
いいよね?!
その後、午後の授業の内容なんて何ひとつ頭に入ってこなかった。
チャイムが鳴って、カバンに教科書をしまいながら
ニヤけそうになる頬を、唇を噛んでなんとか抑えた。
水泳部に向かう茜に手を振って、図書室へ向かう。
図書室へ続く階段の前に来たとき、どうしても止められなかった。
タクミ先輩と話してる。私が。
私だけが、メモ帳で、タクミ先輩と。
あのメモ帳の文字は、先輩の文字なんだ。
先輩の声、だ。
「……ん、ん…ふ、ふふふふ」
制服の袖をぎゅっと握って、私は一人でこっそり笑ってしまった。
その時だった。
「なにニヤニヤしてんだよ、気持ち悪りぃな」
後ろからの声にビクッとして振り返ると、そこにはシュウが立っていた。
