メモ帳を開いたまま、しばらく動けなかった。

顔、熱い。心臓がバクバクしてる。


『ジャムパン、まじでうまかった!』

たった一行なのに、なんでこんなにうれしいんだろ…

なんだか、この字が好き。
クセがあるけど、気持ちをそのまま書いてる感じがして
ごまかしとかそういうものが何もなくて
書いた人そのものを表してるっていうか

……この人ともっと話してみたいって、思ってしまった。

でも、
次、なに書こう?

「私も嬉しいです」 ……いや、堅すぎ?

「でしょ〜!おいしいよね!」 ……うーん、軽すぎ?

ってか、こういうの、なんて呼べばいいの?

交換日記?
なんて言えないよね、こんなに短い文だけだもん

ただの落書き……?


でも、私は、
このメモ帳の中にいる誰かと“会話”してる気がしてた。

「……よし」

深呼吸をしてペンを握る。


『ねえ、あなたは』


手が止まる。


……あなた?

いやいや違うな、先生に向けて書いてるわけじゃないんだから。

でも知らない人だし、

年上かもだし。


『ジャムパン、食べてくれたの嬉しい☆コロッケパンさん…って呼んだらヘンかな(笑)
コロッケパンさんは、タケ屋のコロネはチョコ派?クリーム派?』


こんな感じなら、堅くもなく、軽すぎもしない……はず。

ちょっとだけ、顔がにやけてるのを自覚しながら、
書き終わったページをそっと閉じた。


メモ帳を、昨日と同じ場所に戻す。

その動作ひとつひとつが、
なんだか全部、特別なことのように感じた。


こんなふうに次の放課後が待ち遠しく思うなんて。

「返事、また来るといいな…」


つぶやきは、他の図書係たちが入ってくる音にまぎれて消えた。