つまり。

シュウは、
私がタクミ先輩の彼女を知ったら悲しむだろうって思って
それで
練習試合は部外者は見られないなんて嘘をついたんだ。

私が、傷つかないように。


給食のとき、一人でお鍋を運んでいた子を、そっと手伝ったように


それは、シュウの不器用な優しさだった。


「……まぁ、タクミ先輩に彼女がいたっておかしくないでしょ。あんなにカッコいいんだもん、彼女いて当然」


私は言った。

自分に言い聞かせるつもりもあったかもしれない。
吹っ切れるように。



「ナツを、騙そうとか思ってたんじゃなくて」


シュウの声にも、なにかを吹っ切ったような、諦めみたいな潔さみたいな
そんなものが滲んでいた。

「最初に、嘘ついたのおれで、目立つポジションとか書いて…。部でも全然、おれ、うまくなれなくて、練習でもミスばっかで」

「……」


「タクミ先輩みたいになりたいのに全然うまくいかなくて、それで……、それで、メモ帳ん中ではカッコつけたかったっていうか……」

「うん、いいよ。怒ってない」


怒ってないのは本当。


ちょっと、悲しいけど。

それはきっとすぐに消えていく。





ほんとにごめんな、と言い残したシュウがグラウンドに向かうのを見送って、

私も図書室に向かった。




もう、あの場所にメモ帳は置かない。


さよなら、図書室の“コロッケパンさん”


なんてね。



図書室への階段を一段一段ゆっくりと上がる。

放課後が待ち遠しくて
階段を上ることがもどかしいくらいの日は、もう終わった。

そわそわも、どきどきも、たくさんあった。
そんな気持ちはメモ帳には書き残していないけど
メモ帳よりも大切な宝物になっていくのかもしれない。



明日、新しいメモ帳を用意しよう。

何の変哲もない新しいメモ帳
それを、図書室じゃなくて、2件隣りの家のポストに入れよう。

明るい色のペンで、
タケ屋のコロッケパンと一緒に。

『ちゃんと名前書けよな』とか言われるかもしれないけど。






(終)


ここまで読んでくださりありがとうございました🙂‍↕️