階段下に行くと、会話が聞こえてきた。
男子ふたりの声だった。
「このペン、もういいのか?」
タクミ先輩の声だ。
そして、答えた声は…
「あ、それはもう、いいです…」
シュウだ。
シュウと、タクミ先輩がいる。
「シュウ、おまえ、このペン毎日俺に借りに来てたけど今日はいいの?」
借りに、来てた……?
シュウが、タクミ先輩に?
「はい、もう…」
「まだ使うなら、このペン、おまえにやるけど」
「いえ…、もう、使わない、です」
シュウの声はすごく自信がなさそうで
なんだか、しっぽを下げた犬の姿を思い出させた。
私は階段の踊り場に座って、
タクミ先輩とシュウのやりとりを聞く。
「なんだよ、あんなに毎日借りに来てたのに」
タクミ先輩が軽く笑う。
「すみません…」
「どうした?シュウ、元気ないな、今日、練習休むか?」
「いえ、出ます。ちょっと遅れて行きます」
「わかった。先に行ってるけど、無理するなよ」
走り去る足音が聞こえてきて、
遠ざかって、
そして聞こえなくなる。
シュウだけが、階段下に残った。
私は階段を下りていった。
