(……!!)
「あっ、ゴメン」
タクミ先輩は、驚きのあまり硬直した私に一言言って、すれ違っていった。
背後で軽やかに階段を降りていく音がする。
最後の2弾をぴょんとジャンプして、部室に向けて走っていく、タクミ先輩の足音。
そんな音にさえ、私の心はドキドキして胸が苦しい。
呼吸をしずめながら、図書室に入ると先客がいた。
3年生の図書係の人だ。図書委員長の清田さん。
「こんにちは」
私が挨拶すると、清田さんもこんにちはと返してくれた。
けど、私の前を通り過ぎ、窓を全開にして
こう叫んだ。
「こらー!タクミ!!あんたまた本返してないでしょ!」
タクミ、って
タクミ先輩のことだよね?
少しおいて、窓の外、下の方から声が返ってくる。
「悪りぃ!明日持ってくるー!」
「それ昨日も聞いたけどー!?」
清田さんと、タクミ先輩、
二人ともけらけらと笑いながら。
同じ3年生だし、
確か清田さんはタクミ先輩と同じクラスだし
仲がよくてもおかしくない。
でも
「私、あとでタクミん家に取りに行くからねー!」
家に取りに?
それって…?
清田さんは、窓から振り返ったとき
私が顔にクエスチョンマーク出してるのが分かったみたいで、
困ったように手を振りながら言った。
「あ、勘違いしないでね、私とタクミ、親戚なの」
「えっ、そうだったんですか?」
親戚。
それなら名前で呼び捨てするのも打ち解けた仲なのも分かる。
「うん。私のおじいちゃんと、タクミのおじいちゃんが兄弟なの」
ということは、清田さんとタクミ先輩は
はとこ、というわけだ。
「タクミってさー、昔からわがままで。あいつ一人っ子だからよけいにね。あの顔で許されて生きてきてんの」
イケメン無罪~ってこと
清田さんがいいながらまた笑った。
一人っ子…?
「あの……、タクミ先輩って一人っ子なんですか?!」
「え?うん、そうだよ」
私はあのメモ帳でのやりとりを思い出す。
私がお姉ちゃんとケンカしたって言ったとき、タクミ先輩からはなんて返って来た?
『おれも兄ちゃんとケンカするよ』
そう書いてあった。
でもタクミ先輩は本当は一人っ子――
「どういうこと…?」
「ん?なにが?」
「あっ、いえ、何でもないです!私、掃除しますね!」
私のつぶやきに不思議そうな顔をした清田さんから離れて、
私は掃除道具を取りにカウンターの中へ入る。
心臓が、またうるさくなっていた。
でも、それは恋のどきどきとは違っていた。
