昼休み。
今日はずっと落ち着かなかった。
授業中もずっと頭の中がもやもやしていた。
美結の言葉が、ぐるぐるしてる。
「それにね、タクミ先輩の彼女も来てたって」
タクミ先輩に、彼女がいた。
じゃあ、今までのメモ帳のやりとりはなんだったんだろう。
私だけが、特別って思ってたのは、勘違いだったのかな
確かに、
好きとか言われてない。
付き合おうなんてことも話題になっていない。
でも、
私は、タクミ先輩の“特別”になれてるって
思ってしまってた。
勝手に、
ひとりで。
お昼も食べる気になれなくて、
私は一人で図書室へ向かった。
お昼休みの図書室には何人かの生徒がいた。
そっと、奥の本棚へ向かう。
メモ帳は、そこにあった。
いつものところに、いつもと変わらず。
手に取るのを、一瞬迷った。
怖かった。
何が書いてあっても、
今までみたいに受け取れないと思った。
でも……
思い切って、メモ帳を開く。
『新しいMV、出てたの見た?サビのところ、かっこよすぎてシビレた!来週はアルバムも配信されるって。すげー楽しみ!』
前に話してたアーティストの話だ。
私は、そのアーティストはあまり知らなかったけど
タクミ先輩が好きだって言ったから動画サイトでMV全部見て、曲も聴いた。
先輩の好きなものに触れてることが嬉しかった。
タクミ先輩と共有できるものを増やしていきたかった。
「……でも、タクミ先輩は違ったの?」
ぽつりとこぼれる。
私はペンを取った。
『あなたは、タクミ先輩ですか。彼女いるってほんとですか。』
メモ帳を戻す。
予鈴が鳴った。
ざわざわとした人並みに混じって
私も図書室を出る。
もう、これで終わりになるのかな。
私が勝手に盛り上がってただけだもんね。
重たい足を引きずって、教室に近づいていく。
(……でも。……やっぱり)
私は立ち止まった。
くるりと踵を返す。
人並みの流れに逆らって走り出した。
図書室に向かう。
だめだ、
あんなの書いたらだめ。
あんなの、ただの八つ当たりじゃん
私が勝手に勘違いしてただけなのに
先輩は悪くないのに
私は廊下を駆け抜けて、図書室への階段を一段飛ばしで駆け上がった。
図書室は静まり返っていた。
そっと、足を踏み入れる。
そうっと、足音を立てないように、あの本棚へ。
でも
そこにメモ帳はなかった。
