メモ帳の返事には、今日もいつも通りの声があった。
『最近ちょっと暑くてバテ気味。朝練やると授業中寝ないようにするのキツイ(笑)
テスト近いから、ちゃんとやらないとな~って思いつつ、
また動画見て夜ふかししてる』
……かわいい。
タクミ先輩も動画見て夜ふかしとかするんだ。
てか、先輩が「夜ふかし」とかいうのかわいすぎる。反則。
でもそういうとこも、なんかリアルな先輩を知っていくって感じがしてる。
私だけが見えてる、私だけに見せてくれてる、飾らない姿っていうか
あ、別に、タクミ先輩がいつもカッコつけてるってわけではなくてね?!
…なんて、自分に自分でツッコんだりして。
もう、この気持ちに名前つけようなんて思ってなかった。
全部が、恋だった。
メモ帳開くたび、
タクミ先輩のこと考えるたび、
胸がきゅうっと苦しくて
でも、それは嫌なものじゃなくて、
胸が締め付けられると
タクミ先輩を近くに感じてるって思えた。
そんなふうに、メモ帳でのやりとりを続けていた、ある月曜日の朝のこと。
「おはよ、夏希」
「おはよ~」
教室に入ると茜たちが声をかけてきたけれど、その目はすぐに違うものに移る。
茜の席に、数人の女子が集まって何かを見ているみたいだった。
「何してるの?」
言いながら近寄る。
みんなは、女子の一人、美結のスマホを覗き込んでた。
バズった動画でも見てるのかな?
私もその輪に仲間入りする。
サッカーの試合の映像が再生されていた。
サッカー部の試合だ。
あ、タクミ先輩が点を決めた!
「かっこいい!タクミ先輩じゃん、いつのやつ?」
私が聞くと、美結は動画をリピートさせながら言った。
「昨日のだよ」
「……え?昨日?」
昨日、の日曜日……?
ドクン、と心臓が低く鳴った。
日曜日、って言葉が
耳じゃなくて心臓に落ちてきたみたいだった。
「昨日って、練習試合で、見学できなかったんじゃ…?」
数日前、メモ帳でのやりとりで、こんな会話をした。
日曜日にサッカー部の試合があると噂を聞いた私は、
コロッケパンさんに「見に行きたいな」とメッセージを書いた。
そうしたら、こんな返事があった。
『試合っていっても、来月始まる予選大会の練習みたいなもんだし部外者は見れないよ。おれも出ないし』
部外者は入れない、先輩も出ないなら、見に行っても仕方ないなって思って
私は日曜日、親と一緒にでかけていた。
でも……
本当は違ったの?
試合を見学できたの?
何より――
先輩も、試合に出てたの?
練習だから出ないって言ってたのは?
背中が冷たく感じはじめた。
皮膚の一枚下に、氷が埋め込まれたみたいに。
そんな私の耳に、美結の言葉が追い打ちをかける。
「それにね、タクミ先輩の彼女も来てた」
「あ、聞いたことある。隣の中学の人だよね」
「めっちゃ可愛かった~」
みんなの声が遠くに聞こえた。
彼女……?
タクミ先輩に、彼女がいる?
私は、その場にしゃがみこみそうになるのを
必死でこらえていた。
