「この映画、好きなんですか?」


少女が『こんばんは』以外に掛けてきた質問に


「いや、別に……ただ…」


言いかけて言葉は再び呑み込まれる。


「ただ?」少女が後を引き継ぎ、僕の次の言葉を待っているようだった。






「ただ、人を待っているんだ」





僕の今日一番のはっきりした答えに少女は目をまばたき、


「待ち合わせですか?」との質問に、僕はまたもはっきりと頷いた。


「そう……」少女は静かに納得して、僕と同じように前を向く。映画のスクリーンは予告が終わってオープニングに入ろうとしていた。


「これ、どんな映画なんですか?」


少女に聞かれて「さぁ」と僕は答えた。映画の内容なんて僕には意味がないものだ。ただこの場所が、この席が―――唯一僕と彼女との約束を結ぶ(ところ)だから。


オープニングがはじまり緩やかなBGMが流れ始めたとき


「私、この映画知ってる気がする。確か、幼い中学生が“約束”を交わすんです。


確か女の子だったか男の子だったか……が、転校になっちゃって」


「男の子だよ」


僕ははっきり答えた。さっきは知らない素振りを見せたが。


「そう、男の子だった。確か海外に行っちゃうって……幼い二人のカップルは、駆け落ちするつもりで、最後のデートにここを選んで……」


女の子の後を僕が続けた。


「いつか……五年後、十年後……三十年後だっていい。あのときの映画の半券を持ってここで再会しよう、と」






「そのひととは逢えましたか?」