お代をスマートフォンで払った。アールさんも名刺をくれたので、私も名刺を渡した。
「漫画家の谷崎様のご紹介でしたか。ありがとうございます」
「谷崎さんはこちらによくいらっしゃるんですか」
「たまに」
私の質問にエルさんはふわっとほほ笑んだ。これ以上、顧客のプライベートに踏み込まないで欲しいと言う無言の圧を感じた。

「私たちは週に2回、Oホテルのバーにもおります。よろしければいらしてください」
「え、そ、そんな高級なホテルには、ちょっと」
「では、
こちらでまた、お目にかかります」
流れるように次を約束されてしまった。エルさんはふわふわ笑っている。や、やり手だ……

「次こそはカクテルをいただきますね」
「お待ちしていまぁす」
「お足元にお気をつけて。
あ、
雨がやみましたね」

濡れたアスファルトがネオンを反射してキラキラ光っていた。特別な道のように思えた。レッドカーペットのような。
「あ、あれ?」
さっきもらったふたりの名刺を見くらべてみる。
「苗字が同じ?」
(兄弟? 家族? 親戚?
それとも、)

さっきより街がキラキラして見える。酔いのせいだろうか。
冷たく心地好い風を切って歩く。明日も仕事だ。