続・バーテンダーズ - Life with Cocktails -

「うい」
エルさんがアールさんを静かに呼び、アールさんはのんびりと返事をした。そして、
すっと奥へ引っ込む。その呼び方で良いんだろうか。
「お客様。
これから、ちょっとした余興をお見せします」
「余興?」
「えぇ」
(そ、それって、出し物、みたいな?
何を見せてくれるんだろう!?)
と、

アールさんが、何かを持ってぬるっと帰ってきた。もうパンダにしか見えない。
「ハープです」
「えっ、ちっちゃい!!」
アールさんが手にしていたのは小型のハープだった。ひざに乗るくらいの。映画に出てくる竪琴みたいな。
「弾きます」

聞いたことのない曲だった。
おだやかでゆるやかで、そして、コードの少ないシンプルな曲だった。
(きれいな音)
アールさんが弦をひとつはじくたびに、空気が入れ替わるのを感じる。山の中にいて、自然に囲まれて、大きな滝を見上げているみたい。
アールさんの指使いは繊細だった。私の耳に聞こえているよりもっと多くの和音を奏でているのだろう。エルさんが、
アールさんを見て嬉しそうにほほ笑んでいる。褒めるように。
(そっか。
だからこのお店には、今日、BGMがないんだ)

胸の中でよどんだ空気が入れ替わっていく。強くはないが、季節を変える風が吹いている。
吹いている。
(私の中で)