続・バーテンダーズ - Life with Cocktails -

「何とも思いません」
酔ったんだ。ほんの少し。だから口をすべらせてしまった。生ビールがふわふわでキンキンに冷えていて、美味しすぎて。
さっき、
同僚が女装をして歩いているのを見てしまった。

前からそんな噂はあった。だけど本当だったなんて。
黙っていなきゃ。理解してあげなきゃ。プライベートなんだからそっとしておかなきゃ。
(でも、とってもグルグルする……)

私の迷いのたっぷりこもった質問に、静かに、しかし、はっきりとエルさんは答えた。「何とも思わない」と。
「び、ビックリしませんか?」
「特には」
(それは信頼関係のなせる業だ)
エルさんとアールさんがどんな関係なのかわからないが、ふたりの間には強固な信頼関係があるようだ。しかし、
あの同僚と私はただの仕事仲間なのだ。信頼関係は多少あれども友だちではない。
「何かお困りですか」

アールさんのとなりに椅子を持ってきて座ったエルさんが、私を見て優しくそう聞く。思いやりがたっぷりこもった声だった。
「こま、っ、た……」
(え、私、
何も困ってない)

街で同僚を見かけた。
その同僚は好きな服を着て街を歩いていただけ。私は通りかかっただけ。
(私……
何も困ってない)
では、
私にとって何が不都合だったのだろう?

「パンダ」