「エルさん。
あなた、私の夫の生まれ変わりでしょう?」

そう言って微笑んだ私に、彼は優しく微笑み返した。

なんの楽しみもない旅行だと思っていた。
だけど違った。私はとうとう見つけたのだ。私の夫を。
いや、夫の生まれ変わりを。

家族にうとまれている。一生懸命育てた娘も息子も心がない人間に育った。
孫たちは可愛いがいつまで可愛いのか。すぐにあの子たちも心のない人間になるだろう。
介護施設に入る前の最後の自由。着いてきたのは身内ではなく雇われた看護師だった。

東京都内を見下ろす高級ホテルに滞在している。観光などおっくうだ。東京は見慣れているし、車椅子だし。(だんだん身体も動かなくなってきた)
看護師は優しいがそれは雇われているからだ。夫と私が懸命に働いて貯金し、投資して増やしたお金で。
(何様なのだろう。この看護師も、うちの子供たちも)
私の遺産目当てのくせに。早く私に死んでほしいくせに。
(おまえたちに遺産など渡すものか)

その青年とは、ホテルの廊下ですれ違った。