私、わたし、わたし……
秘密にしなきゃ!!
バーを訪ねる途中だった。
渋谷駅のハチ公口を出て、スクランブル交差点の信号待ちをしていた。
見てしまった。
紫色の傘の下から、更ける夜と凍てつく小雨に溶けるように消えたものを。
(私、わたし……
秘密にしなきゃ!!)
- 面白いバーを見つけたんです。いかがですか。
私が担当する漫画家のひとりが、あるバーを紹介してくれた。
編集者として見聞を広めよう。そんなささいな義務感とたっぷりの好奇心をまとって、私はそのバーへ今、向かっている。
(見てはいけないものを見た)
罪悪感で重くなる足取り。センター街をゆっくりと進む。傘にかくれる。地図アプリに目を落とす。
そのバーは、
思ったよりもあっさりと見つかった。
センター街からわきにちょっと入ったところの雑居ビルの2階にそのバーはひっそりとあった。
小さいお店だ。カウンター席が5つしかない。
壁は白く、水彩の田園風景や、手編みらしい赤とピンクのモチーフ、
鉛筆で描いた有名人の人物画など5つの作品が小さな額に入って飾ってあり、
真新しい木製のカウンターの端には、化学の実験で使うフラスコのような形の白い陶器の花器に違う種類の白色の大手鞠が2輪飾ってあった。
スツールは薄い黒だ。小さな背もたれがついていて、座り心地が良さそうだ。
窓には白いレースペーパーが貼られ、オレンジ色の街の灯りがその模様を透かしていた。
店内はほんのりと明るい。天井を見上げると、スイセンの花を集めたようなシャンデリアが見えた。
カウンターの向こう、正面には、さまざまなお酒のビンが並んだ木製の棚が見える。知っている有名な銘柄のほかに、
見たことのないビンもたくさんあった。
「いらっしゃいませ」
秘密にしなきゃ!!
バーを訪ねる途中だった。
渋谷駅のハチ公口を出て、スクランブル交差点の信号待ちをしていた。
見てしまった。
紫色の傘の下から、更ける夜と凍てつく小雨に溶けるように消えたものを。
(私、わたし……
秘密にしなきゃ!!)
- 面白いバーを見つけたんです。いかがですか。
私が担当する漫画家のひとりが、あるバーを紹介してくれた。
編集者として見聞を広めよう。そんなささいな義務感とたっぷりの好奇心をまとって、私はそのバーへ今、向かっている。
(見てはいけないものを見た)
罪悪感で重くなる足取り。センター街をゆっくりと進む。傘にかくれる。地図アプリに目を落とす。
そのバーは、
思ったよりもあっさりと見つかった。
センター街からわきにちょっと入ったところの雑居ビルの2階にそのバーはひっそりとあった。
小さいお店だ。カウンター席が5つしかない。
壁は白く、水彩の田園風景や、手編みらしい赤とピンクのモチーフ、
鉛筆で描いた有名人の人物画など5つの作品が小さな額に入って飾ってあり、
真新しい木製のカウンターの端には、化学の実験で使うフラスコのような形の白い陶器の花器に違う種類の白色の大手鞠が2輪飾ってあった。
スツールは薄い黒だ。小さな背もたれがついていて、座り心地が良さそうだ。
窓には白いレースペーパーが貼られ、オレンジ色の街の灯りがその模様を透かしていた。
店内はほんのりと明るい。天井を見上げると、スイセンの花を集めたようなシャンデリアが見えた。
カウンターの向こう、正面には、さまざまなお酒のビンが並んだ木製の棚が見える。知っている有名な銘柄のほかに、
見たことのないビンもたくさんあった。
「いらっしゃいませ」



