ここに、近衛騎士リアムが居る理由。陛下が貴族学校の卒業式にいる理由。彼はそれが誰かの要請によるものだと察したらしい。

「だって公に婚約を破棄されれば、私が二人の愛のために犠牲になることになるもの。そんなこと、私は絶対に嫌だわ。自分が悪事を働いたのなら受け入れるけれど、実際はそうではないもの」

 やりもしない悪事で罰せられるなんて、絶対に嫌。私がそう言えば、リアムは苦笑して頷いた。

「ええ。その通りです。アンジェラ様はデニス殿下を、お好きではなかったのですね?」

「婚約者として将来的に結婚するとは思って居たけれど、彼に他にお好きな女性が居るならば、お好きに結婚なされば良いと思うわ」

 肩を竦めた私は寮に向かってゆっくりと歩き出せば、巡回中らしいリアムも付いて来た。

「お送りします。お一人なので」

 どうやら女子寮まで送ってくれるつもりらしい。けれど、ここは貴族学校の敷地内。危険なんて何もないように思うけれど。

「何もないわよ?」

「いえ。どんな危険があるか、わかりませんよ。ひと気のない場所に、美しい女性は気を付けるべきだと思います」