ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

 リアム・フォーカード。つまり、僕の役目はそんな彼女を、密かに捕らえに行く近衛騎士だった。

 王太子デニスはアンジェラを犠牲にして幸せになることに躊躇はなく、いくつかの誤解があったと知れても彼はアンジェラを容赦なく断罪することにした。

 牢に入れられて、もう戻れないと悟り、彼女が絶望の叫びをあげる。そうしたら、僕はまた『卒業式の夜』に飛ばされてしまう。

 断罪から絶望まで。何回も数十回も繰り返し、不毛なループを断ち切ろうと様々な方法で抜けだそうと試みても無駄だった。

 可哀想な彼女は僕や僕ではない騎士や兵士に手を引かれて、大粒の涙をこぼす。それを救ってあげたくても……僕は何も出来ないのだ。

 アンジェラの父であるスカーレット侯爵にも、様々なやり方で訴えたことはある。けれど、娘の窮状を彼は信じない。

「……今夜は国王陛下は、貴族学校に行くらしい」

 近衛騎士団長からのその言葉を聞いた時、僕はようやく何度も何度も繰り返す、この夜の突破口の存在を感じた。