ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

「ええ。婚約者が居なくなった心の空白を埋めるのなら、すぐにここで申し出た方が良いと思いました。寂しいところにつけいる悪い男のように思われるかもしれませんが、陛下の近衛騎士であることが、僕の何よりの身分証明になると思いますが」

「そうね」

 国王陛下の近衛騎士であるということ。上級貴族の血筋でも選ばれし騎士にしか出来ない職業であるし、ここまで言うのならリアムはフォーカード侯爵となるのだろう。

「とは言え、貴女ほどの美しい女性であれば、どんな道でも選べます。無理強いするつもりはありませんが、出来れば今夜決めて頂きたいですね」

「良いわ」

 私は彼の青い目をまっすぐに見て、そう言った。そして、片手を挙げて彼を待った。これは、エスコートして欲しいという意味だ。

 私は公爵令嬢であるからには、貴族以上と結婚する必要がある。

 親に決められた婚約者がいなくなったなら、夜会などで出会いを求め求婚されることを待つことになるけれど……どうしてかしら。リアム以上の男性に出会えないと思ってしまうのは。

「……ありがとうございます」

 リアムはにっこりと微笑み、私の手を取った。