ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

 名家の貴族令嬢は、大抵幼くして家に決められた相手と婚約している。だから、婚約を破棄されたばかりの公爵令嬢は、彼にとってちょうど良い結婚相手となりうると……彼はそう言いたいのだ。

「ええ。アンジェラ様とて、いずれは貴族や王族に嫁がれるでしょう。その相手は、僕でどうですか。いずれ侯爵となりますし、貴女に苦労はかけません」

 跡継ぎに何かあった時のために育てられた次男(スペア)の出番となる。次男は爵位を継げないけれど、嫡男と同じように育てられる。

 成人になれば家を出て、実業家や騎士として身を立てていくことが一般的だ。

 そういえば、以前フォーカード侯爵の話は私も耳にしたことがあった。病弱な嫡男は一時期体調を持ち直したものの、また体調を悪くしたらしいと。だから、次男に家督を譲る話になっていて……。

 それが、目の前のこの男……近衛騎士リアムだということね。

「そうね……確かに私もこれから、結婚相手を探さなければいけないわ」

 デニス殿下との婚約が破棄になり、正直に言えばせいせいしていた。彼らのあの真実の愛を盛り上げるための悪役令嬢なんて、本当に嫌だったから。