ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。

 そう言い彼は片目を瞑ったので私には断る理由もないし、女子寮はすぐ近くだった。

「……ありがとう」

「いえいえ。もし良かったら、僕と婚約しませんか」

 驚いた私はそこで、リアムの顔を見た。彼はにっこりと微笑んで居た。

「……いきなり、何を」

 この人、私と婚約しようって言ったわよね? まじまじと彼の顔を見つめても、リアムは全く動じずに頷いた。

「アンジェラ様は、今夜、そういった理由でデニス様と婚約者ではなくなったんですよね? 僕は実はフォーカード侯爵家の次男ですが、跡継ぎのはずの兄は病弱で今は爵位を継ぐことを諦める話になっております。ですので、いずれ僕がフォーカード侯爵となるのですが、兄は既に結婚済でして……妻を引き継ぐわけにもいかず、僕は他に結婚相手を探すことになっております」

「私のこと……ちょうど良い結婚相手だと思ったということ?」

 にこにこと微笑んだリアムの表情は、まったく揺るがない。