「アンジェラ・スカーレット……ここに居るエリカに悪事を働いたことは、僕には調べが付いている。君との婚約は、ここで破棄させて貰う!」

「はい。私(わたくし)アンジェラ・スカーレットは、デニス殿下との婚約破棄を受け入れます」

 生まれてすぐに婚約を結び、十数年の長い時を『婚約者』という関係で過ごしたデニス殿下の言葉に私は力強く頷き、スカートの裾を持ってカーテシーをした。

 そして、無言のまま時が過ぎた。王族相手には『顔を上げて良い』と言われるまで、このままの体勢で待つのが通例だけど、さすがに長過ぎた。おかしいわ。

 もうこれは十二分に待っただろうと私が顔を上げると、私が幾度も嫌がらせをしているともっぱらの噂の異世界から来た聖女エリカ様の腰を抱き、ポカンとした表情を見せていた。

 あら……まだ、私に何か用があるのかしら。

 デニス殿下の要求の通り、私は婚約破棄を受け入れたはずだけど。

「アンジェラ。何か……ここで申し開きしたいことは、何もないのか?」

 デニス殿下におそるおそる問いかけられて、私は極力しおらしく見えるように悲しげに首を横に振った。