「おえっ……」
私、軽く吐き気をこらえています。
(し……死ぬかと思った……)
ミッドの運転は、マジでやばかったです。
朦朧とする意識の中で死んだおじいさんが
私の足首を掴んで離さなかったときは
ちょっと泣きそうになりましたね。
(若人よ、己の技に酔うな。
そして法定速度はちゃんと守れ!)
と心の中で声を大にして言う私は、悲しいチキン星人です。
王宮を出て1時間半、色々なものをガリガリと削り取られましたが、
なんとか生きて、国境沿いのサービスエリアにたどり着くことができました。
さて、問題はここからです。
展望台にバイクを停めると、私はその頂きに立ちました。
深淵が覆う鬱蒼と茂る針葉樹の森の先に、
我が祖国『欺きの国サイファリア』がある。
私は祖国を思い、瞳を閉じました。
その場所に私の愛する者がいる。
だが私はこの国を果たして愛しているのか?
私を捨て駒として差し出した祖国。
駒である私に意思を持つことを禁じた国。
あくまで駒としてこの生を全うしようと、
ただそれだけを思っていた私が、
何故今この場所に立っている?
この場所に立つことの意味を、
私はちゃんと理解しているのか?
自分の中の冷めた部分がそう自分を諭す。
一方でこみ上げる熱いものが、自身の中を駆け巡り、ひどくかき立てる。
ふと、思ってしまってしまったのだ。
この熱にいっそ焼き尽くされてみたい、と。
それは白銀の焔。
その熱量は、凍えた人形であった私を人に変えた。
『それよりも、お前は私に約束しろ。
もう決して一人では泣かないと。
泣きたいときには私を呼べ、
隣にいるだろうが』
ミシェル様の言葉を思い出し、
どの道、私はもう人形には戻れないのだと悟った。
「では、そろそろ行きましょうか、ミッド」
そう言ってミッドを振り返ったときです。
「こんな夜中にどこに行こうというのだ?」
コートのポケットに手を突っ込んだミシェル様が、
こちらに向かって歩いてこられるではありませんか。
「ミシェル……様?」
病気は?
発作は?
色々な疑問符が頭に過ります。
「寒いっ! さっさとたい焼きを食って帰るぞ! 来い」
そういってミシェル様が、私に手を差し出したときでした。
不意に殺気を感じとって後を振り返ると、
ミッドの背後に黒い戦闘服を着た男が、迫っていました。
私は跳躍し、相手の喉笛に蹴りを入れますと、
男はギャッと言って倒れました。
迂闊でした。
いつの間にか取り囲まれていたようです。
ざっと30人位いますかね。
「ミッド、ミシェル様を連れて逃げて」
そう言って私は敵の中に突っ込んでいきました。
黒の戦闘服の皆さんは、どうやらプロの方のようです。
幼気な少年の姿の私をも、容赦なく殺しにかかっています。
私に向かって振り下ろされる拳を受け、とりあえずぶん投げました。
私は外交上問題があるので、殺しはしませんが、
皆さんもプロなら骨の一二本は覚悟してくださいね。
一部隊30人程度なら5分もあれば十分でしょう。
国元での訓練を思い出して少し懐かしいです。
私は子供で体力がないので、多人数を相手にするときは、
確実に急所を突きます。
顔面、こめかみ、額、頸椎、鳩尾、顎……。
内臓を突くときの鈍い音とか、
断末魔の呻き声とか、
返り血の生温かさとか。
本当はあまり好きではありません。
まあ、でも今は好き嫌いを言っても仕方がないので、
ひたすら拳を繰り出します。
少し手を休めて、ミッドを見れば、
ちゃんとミシェル様をかばって戦ってくれています。
形勢は少し不利か?
間合いを、ミッドのほうに詰めて
援護に向かおうとしたときです。
敵に足を引っかけられたミッドが
スっ転んでしまいました。
「ミッド!」
ミッドの頸動脈に、刃物が突き付けられました。
(万事休すか?)
私が唇を噛んだ時です
「やめよ」
ミシェル様が静かに言い放ちました。
「それは私の部下にすぎん。
貴様らの目的は私であろう。
ならば私を好きにすればいい」
そういってミシェル様は、、
手に持っていた剣をその場に放り投げました。
金属がアスファルトに当たる音が、やけに甲高く響きました。
その光景が、この胸を鷲掴みにして、
私はその場で微動だにできませんでした。
為す術もないままに黒い戦闘服のリーダー格の男が、
ミシェル様に触れようとした時です。
ひゅっという空気を割く音と共にナイフが飛んできて、
男の手にぶっ刺さりました。
ぎゃっと叫んだ男の視線の先には、
たい焼きの包みをもったアレックが立っていました。
「汚い手で私の息子に触れるな」
聞きなれたアレックの声のはずなのに、
それは初めて聞く声のようでした。
アレックの執事としてではなく、父親としての言葉。
「息子???」
思わず私はミシェル様とアレックを
二度見してしまいました。
その言葉にミシェル様の目が
大きく見開かれ、放心しておられます。
「すいませんね、ちょっと持っていてください。
たい焼きがさめる前にケリをつけますので」
そういって私はアレックにたい焼きを手渡されたのですが、
「あの……えっと……」
対応に困ります。
両手ふさがっちゃったら戦闘できないじゃん。
って思ってたんですけど、
いや、実際困る必要はなかったです。
私で恐らく5分くらいはかかるであろうは戦闘行為が、
アレックの手にかかると秒で片付きました。
「アレック……最強じゃないですか……」
私、ちょっと、自信を失いました。
私、軽く吐き気をこらえています。
(し……死ぬかと思った……)
ミッドの運転は、マジでやばかったです。
朦朧とする意識の中で死んだおじいさんが
私の足首を掴んで離さなかったときは
ちょっと泣きそうになりましたね。
(若人よ、己の技に酔うな。
そして法定速度はちゃんと守れ!)
と心の中で声を大にして言う私は、悲しいチキン星人です。
王宮を出て1時間半、色々なものをガリガリと削り取られましたが、
なんとか生きて、国境沿いのサービスエリアにたどり着くことができました。
さて、問題はここからです。
展望台にバイクを停めると、私はその頂きに立ちました。
深淵が覆う鬱蒼と茂る針葉樹の森の先に、
我が祖国『欺きの国サイファリア』がある。
私は祖国を思い、瞳を閉じました。
その場所に私の愛する者がいる。
だが私はこの国を果たして愛しているのか?
私を捨て駒として差し出した祖国。
駒である私に意思を持つことを禁じた国。
あくまで駒としてこの生を全うしようと、
ただそれだけを思っていた私が、
何故今この場所に立っている?
この場所に立つことの意味を、
私はちゃんと理解しているのか?
自分の中の冷めた部分がそう自分を諭す。
一方でこみ上げる熱いものが、自身の中を駆け巡り、ひどくかき立てる。
ふと、思ってしまってしまったのだ。
この熱にいっそ焼き尽くされてみたい、と。
それは白銀の焔。
その熱量は、凍えた人形であった私を人に変えた。
『それよりも、お前は私に約束しろ。
もう決して一人では泣かないと。
泣きたいときには私を呼べ、
隣にいるだろうが』
ミシェル様の言葉を思い出し、
どの道、私はもう人形には戻れないのだと悟った。
「では、そろそろ行きましょうか、ミッド」
そう言ってミッドを振り返ったときです。
「こんな夜中にどこに行こうというのだ?」
コートのポケットに手を突っ込んだミシェル様が、
こちらに向かって歩いてこられるではありませんか。
「ミシェル……様?」
病気は?
発作は?
色々な疑問符が頭に過ります。
「寒いっ! さっさとたい焼きを食って帰るぞ! 来い」
そういってミシェル様が、私に手を差し出したときでした。
不意に殺気を感じとって後を振り返ると、
ミッドの背後に黒い戦闘服を着た男が、迫っていました。
私は跳躍し、相手の喉笛に蹴りを入れますと、
男はギャッと言って倒れました。
迂闊でした。
いつの間にか取り囲まれていたようです。
ざっと30人位いますかね。
「ミッド、ミシェル様を連れて逃げて」
そう言って私は敵の中に突っ込んでいきました。
黒の戦闘服の皆さんは、どうやらプロの方のようです。
幼気な少年の姿の私をも、容赦なく殺しにかかっています。
私に向かって振り下ろされる拳を受け、とりあえずぶん投げました。
私は外交上問題があるので、殺しはしませんが、
皆さんもプロなら骨の一二本は覚悟してくださいね。
一部隊30人程度なら5分もあれば十分でしょう。
国元での訓練を思い出して少し懐かしいです。
私は子供で体力がないので、多人数を相手にするときは、
確実に急所を突きます。
顔面、こめかみ、額、頸椎、鳩尾、顎……。
内臓を突くときの鈍い音とか、
断末魔の呻き声とか、
返り血の生温かさとか。
本当はあまり好きではありません。
まあ、でも今は好き嫌いを言っても仕方がないので、
ひたすら拳を繰り出します。
少し手を休めて、ミッドを見れば、
ちゃんとミシェル様をかばって戦ってくれています。
形勢は少し不利か?
間合いを、ミッドのほうに詰めて
援護に向かおうとしたときです。
敵に足を引っかけられたミッドが
スっ転んでしまいました。
「ミッド!」
ミッドの頸動脈に、刃物が突き付けられました。
(万事休すか?)
私が唇を噛んだ時です
「やめよ」
ミシェル様が静かに言い放ちました。
「それは私の部下にすぎん。
貴様らの目的は私であろう。
ならば私を好きにすればいい」
そういってミシェル様は、、
手に持っていた剣をその場に放り投げました。
金属がアスファルトに当たる音が、やけに甲高く響きました。
その光景が、この胸を鷲掴みにして、
私はその場で微動だにできませんでした。
為す術もないままに黒い戦闘服のリーダー格の男が、
ミシェル様に触れようとした時です。
ひゅっという空気を割く音と共にナイフが飛んできて、
男の手にぶっ刺さりました。
ぎゃっと叫んだ男の視線の先には、
たい焼きの包みをもったアレックが立っていました。
「汚い手で私の息子に触れるな」
聞きなれたアレックの声のはずなのに、
それは初めて聞く声のようでした。
アレックの執事としてではなく、父親としての言葉。
「息子???」
思わず私はミシェル様とアレックを
二度見してしまいました。
その言葉にミシェル様の目が
大きく見開かれ、放心しておられます。
「すいませんね、ちょっと持っていてください。
たい焼きがさめる前にケリをつけますので」
そういって私はアレックにたい焼きを手渡されたのですが、
「あの……えっと……」
対応に困ります。
両手ふさがっちゃったら戦闘できないじゃん。
って思ってたんですけど、
いや、実際困る必要はなかったです。
私で恐らく5分くらいはかかるであろうは戦闘行為が、
アレックの手にかかると秒で片付きました。
「アレック……最強じゃないですか……」
私、ちょっと、自信を失いました。

