ときどき、ひとりで美術館を訪れる。
夕暮れ時の閉館直前、閑散とした時を狙って行く。
美術品への興味は人並み程度。勿論知識も人並み。
ただ、
静寂を買いに行くのだ。

それならば図書館でもカラオケボックスでも良いのではとしばしば言われるが、
夕暮れ時の美術館の静寂が一等好きだった。
石造りの建物とこじんまりとした池の睡蓮が夕日の橙色に染まる小道。
一日の業務がもう少しで終わると言う刻限に受付に座るスタッフの疲れた顔に落ちる影も良い。
そして、
常設展に足を踏み入れて、
そこが正に絵や彫刻、既にひとの手を離れ「物」と化したものたちが静かに佇み、異質物の自分を受け入れざるを得ない、また、受け入れても尚しずしずと佇んでいる光景ももちろん良い。

今日も「静寂」を買いに行く。