それから数日。
煉が転校してきたという噂は、学校中にあっという間に広がった。

「え、あの人って元“黒霞”の……?」

「ヤバ……絶対関わっちゃダメなやつじゃん」

「でも顔、めちゃくちゃタイプ……!」

廊下を歩くだけで、ひそひそとざわめきが起きる。
煉はというと、まるで気にも留めず、無表情で教室に入ってくる。

だけど、そんな煉が私にだけ向ける目は――少しだけ、柔らかかった。

(……何なの、あれ)

やけに近くに座ってくるし、何かと話しかけてくるし、
とにかく私の周りをうろちょろしてくる。

「なぁ、美羽」

「……また?」

「昼、一緒に食おうぜ」

「……なんで?」

「他のヤツらに見せつけときたい」

その言葉に、私は思わずペンを落とした。

「見せつけるって……なにを?」

「俺のだって、分からせたいんだよ」

煉の声は、誰にも聞こえないように低くて優しい。

けれど、その瞳は冗談ひとつ許さないような、真剣な色をしていた。