屋上から戻ってきた私は、教室に入るとすぐに数人の視線を感じた。

(またか……)

もう慣れたつもりでいたけど、ひそひそ話されるのはやっぱり気持ちのいいものじゃない。

「橘さん、黒津くんと付き合ってるって本当?」

唐突に前の席の女子が問いかけてくる。

「……そんなこと誰が言ってたの?」

「みんな言ってるよ。だってあの黒津くんが、あんなに優しくするなんて前代未聞でしょ?」

「別に、そういうんじゃ……」

言葉を濁す私に、別の女子がニヤッと笑う。

「ま、いいけど。付き合ってるなら、ちゃんと守ってもらわないとね。いろいろと」

「……え?」

意味ありげな言葉に引っかかりながらも、それ以上聞けなかった。

(なんか、嫌な感じ……)

放課後、教室を出た私は、下駄箱の前で煉と合流した。

「なんかあったか?」

「……ううん、なんでもない」

「顔に出てんぞ、全部」

そう言って頭をぽんっと撫でられると、少しだけ緊張がほぐれる。

(こんなふうにされると、信じたくなるんだよね)

だけど胸の奥に残る、ざらっとした違和感――
それが何かは、まだ言葉にならなかった。