「……黒津くんと、付き合ってるの?」

朝のHR前、クラスの女子が何気なく投げたその言葉に、教室の空気が一瞬で凍りついた。

「えっ……いや、そんなわけ……」

慌てて否定する私を、女子たちはじっと見つめてくる。

「でもさ、毎朝一緒に来てるし、昼休みも話してるし……なんか、特別っぽくない?」

「ちょっと羨ましいよね。黒津くん、カッコいいし」

「しかもあの黒霞の総長だよ? レアじゃない?」

「それより怖いでしょ……」

わいわいと噂めいた声が飛び交い、私は苦笑いを浮かべたまま何も言えなかった。

(……これ、めんどくさい流れだ)

別に隠してるわけじゃないけど、特別な関係だとも言い切れない。
曖昧な距離が、周りを余計にざわつかせてるのは分かっていた。

そのとき、教室のドアが開いた。

「……よっ、美羽」

「っ、黒津……!」

煉が入ってきた瞬間、女子たちの視線が一斉に集中する。

「今日の昼、屋上な」

「は? なんで私が……」

「決定。じゃ」

言いたいことだけ言って、すぐ出て行く。
残された私は、再び教室の注目の的だった。

(……勘弁してよ、もう)

心の中でため息をつきながらも、少しだけ――胸が高鳴っていた。