「……じゃ、そろそろ寝るね」

「うん。おやすみ、美羽」

通話を切ると、スマホの画面が暗くなる。
その瞬間、急に静かになった部屋に、不安がじわりと広がっていった。

(……こんな風に、優しくされると、期待しちゃうじゃん)

煉の気持ちが本当なら――
私たちは、また何かを始められるのかもしれない。

だけど。

(……私は、いつかまた置いていかれるのが怖い)

煉の家の事情も、黒霞のことも、そして――煉自身の変化も、全部が未知だった。
「好き」だけじゃ乗り越えられないことがあるって、知ってるから。

次の日の朝、校門の前には、いつものように煉が立っていた。

「おはよ」

「……なんで毎日待ってんの」

「お前が来るの、見てたいから」

「……変わんないね、そういうとこ」

「お前が照れてるとこ、久しぶりに見た」

「うるさいっ!」

煉といる時間は、確かに心地いい。
だけど、いつかこの幸せが終わるかもしれない――
そんな予感が、私の心に、ずっと居座っていた。