学校のアイドル、ミユが彼氏と別れたらしい。
 オレは、この日をずっと待っていた。

 ずっとミユのことが好きだった。今までは単なるクラスメイトだったけど、もうその関係に終止符を打ちたいと思っている。

 放課後ミユは、教室で泣いていた。
 これまでは彼氏がうちのクラスまで迎えに来ていた。しかし今日はだれも来ない。
 それをわかっていながら、ミユは時々顔をあげながらキョロキョロしている。
心の底から、復縁を期待しているようだった。

 だめだよ、今からオレのターンです。

「どうしたの、大丈夫? オレでよければ話聞くよ」
 オレ史上一番優しい声で話しかけると、ミユは一旦考えるように間を置いてから、ゆっくり顔を上げた。
 泣き腫らした瞳で、気だるそうにこちらを見たミユ。
 その姿を見たオレは衝撃を受けた。

 艶のある悲しげな表情に乱れたロングヘア、肩を上下させて切ない吐息をもらしている。
 初めて見るそんな彼女の姿。

 ギャップにオレは心底やられてしまった。顔や背中、体中がビリビリして、息をするのも忘れるくらい急激に発熱した。
(女の人が泣く姿って、イイ)

「⋯⋯なにも聞かないで。きっと幻滅するから。わたしのこと、受け入れてくれる人なんてどこにもいないんだ」
「オレならどんなミユでも受け入れる。悪いことも汚いことでも、それが君の一部なら全部受け入れる。めちゃくちゃ好きなんだ」
 心底そう思ったから伝えた。

「ありがとう、でも今はそういう気⋯⋯なくて」
 しかしその日は素気なくあしらわれて終わった。 

 それからオレは、しつこく愛を伝える作戦に出た。他に方法が思いつかなかったし、そもそも焦りがあった。
 平凡な自分と美少女のミユが、釣り合わないことは始めからわかっている。でもあのミユのギャップある姿が頭から離れなくて、もうオレは、止まらなくなっていた。
(なんでもいいからミユと付き合いたい。競争率が高いコだから、早く攻め落とさないと⋯⋯)

「好きだよ」
「ミユのこと考えると、愛するってことの意味がわかるんだ」
「オレを選んでくれたら、絶対にミユを離さない。一生愛す」
「どんな芸能人よりも可愛いよ。ミユがアイドルだったらオレいくらでも積めるなぁ」
「ミユなら目の中入れても痛くないし、食べちゃいたいくらい好きだよ」
「大好き、超好き、宇宙一好き!」

 オレのなりふり構わない様子を見て、心配したクラスの女子がミユの元彼との話を吹聴してきた。
 でもそんなの無視した。
 だってミユはすでにオレになびき始めていたから。

(過去のミユの話なんてどうでも、いい)