見つけた時は暗くてよく見えなかったのだろう、シルバーの指輪の側面にはなにやら細かく文字が掘られており、細かくあしらわれた赤色のダイヤは私のものとは違い、どこか不気味な煌めき方をしている。
「私のじゃ、ない……?」
そう言った矢先、投げ捨てられるように左腕を解放され、私はその弾みでその場に倒れ込んだ。
「お前を今すぐ殺めてその指輪を奪うこともできるが、契約を結べば今は生かしておいてやると言ってるんだ」
彼の目は本気だった。本当にいつでも私の命を奪うことが出来るのだろう。だとしても、さっきから彼が言っていることは何ひとつとして理解できていないし、腑に落ちてもいない。普通に考えてこの人は正気を失っている。
このままこの人のノリに合わせた方が身のためかもしれない。この人の目から感じられる殺気は本物だし。それに、こんなところで死ぬ訳にはいかない。どんな無惨な殺され方をするかもわからない。だから今はなんとしてでも生きてこの人から逃げることだけを考えないと。
そうなれば、残された選択肢はもうひとつしかない。
下唇をぎゅっと噛み締める。
ここは彼に合わせて、とりあえずこの場を穏便に済ます。
指輪が外れるとか外れないとかは二の次だ。だって、外れない指輪なんてあるわけないのだから。
「…わかった。契約内容を教えて」
震える唇でなんとかそう言葉を紡げば、彼は満足そうに片方の口角をあげた。
「お前の精気をよこせ、その指輪に」



