「……は?」
「なんだその顔は。信じてないだろ」
突拍子もない言葉につい間抜けな声が漏れた。この人はやっぱりおかしい。やばい人だ、危険な人だ。
じりじりと距離を取り始めた私をみて、彼は呆れたような表情を浮かべたあと、目にかかった長い前髪をわしゃわしゃと掻きあげながら大きなため息をついた。
「しょうがないから見せてやる。俺の正体を」
その言葉の後、私の目に写ったのは信じがたい彼の姿だった。
「…………な、なん、なの」
バサリと背中から広がる大きな真っ黒な翼。高い身長に相まって、翼が生えた彼の迫力は凄まじかった。
「俺の正体を知ってもう簡単に逃げられると思うな」
そう言って彼は意地悪に微笑んだ。
ただ呆然とすることしか出来ない私に、彼の大きな手が近づく。そして、ガっと強引に腰を引き寄せられたかと思うと、彼の鋭い瞳が私を捉えた。
……と、その瞬間、徐々に遠のいていく意識。
「お前の記憶、見せてもらった」
彼の言葉の意味も理解出来ないまま、私はどうかこれが夢である事を願いながら目を閉じた。
〝悪魔と契約〟この出来事がどんなに危険なことか。この時の私はまだ分かっていなかった____
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