「…………ない」


大学に向かう途中の電車で、私は絶望的なことに気がついた。小さい頃から大切にしてきた指輪が、入れたはずの鞄のポケットにないのだ。

確かに今朝は寝坊して電車に乗り遅れないように焦って家を飛び出してきた。だけどあの指輪はお守りのようなもので、絶対に家からは持って出てきたはず。


「最悪だ…」


必死に思考をめぐらすけれど、いつ落としてしまったのか、どこら辺で落としてしまったのか、全く検討がつかない。そんな中、気づけば大学の最寄り駅に到着し、私は半泣きの状態で静かに電車を降りた。


改札口を出れば私の名前を呼ぶ声がして、俯いていた視線をその声主の方へ向ける。


「真理(まり)ーーっ!!おはよ!!」

「結月(ゆづき)、おはよう」


同じ学科で今年に入って急速に仲良くなった友達、赤井 結月。明るく朗らかな性格で、一緒にいて楽な子だ。


「えっなに?どうしたの?なんかあった?」


私のテンションの低さを察知した結月が心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでくる。


「それがさ…大切な指輪落としちゃったみたいでさ」

「え?!いつもはめてた綺麗なやつ??」

「そう。いつもなら家出る前にはめるんだけど、今日はバタバタしてて、鞄のポケットにつっこんじゃったんだよね…」

「なるほど…」