〇大学・体育館裏・夕方
ト書き:
小春が道着姿で、仮入部中の柔道部の練習に参加している。
組み合った男子学生を見事な背負い投げで投げる。
小春「いっぽーんっっ!!」
部員たち「ひええええっ、強すぎる……!」
ト書き:
畳に寝転がって、汗だくで笑う小春。
小春(モノローグ)
(あー! 思いっきり投げると、スッキリする〜〜〜)
(失恋なんて、ぜんぜん大したことなかった!……ことにする!)
ト書き:
体育館の影から、それを見つめている蓮の姿。
蓮(モノローグ)
(――あんなに投げてるのに、笑ってる……)
(本気で、何かに向かってる目だ。まっすぐすぎて、怖いくらいに)

〇ホストクラブ・夜・営業中
ト書き:
煌びやかなフロア。蓮(レン)はホストとして、女性客の前で笑顔を浮かべている。
女客「ねぇ、レンくんって本気の恋したことある?」
蓮(レン)「……さぁ。どう思いますか?」
ト書き:
微笑む蓮。しかし、その笑みに影がある。
隣の席では、No.1の隼人がにぎやかに場を盛り上げている。
ト書き:
その後、控室に戻った蓮。鏡の前でジャケットを脱ぐと、肩がぐったりと落ちる。
スタッフ「お疲れっす。レンさん、ちょっと顔に出てましたね。今日」
蓮「……ああ、わかってる」
ト書き:
スマホを取り出し、ふと小春からの連絡履歴を見つめる。
蓮(モノローグ)
(……疲れた、のかもしれない)
(作った笑顔も、演技も――今日は、うまく貼りつかなかった)

〇ホストクラブ・バックヤード・深夜
ト書き:
終礼後、誰もいなくなったバックヤード。
蓮がひとりで椅子に座り、小春の文芸部ノートを取り出す。
そこには、あの“ホスト短編”の続きが走り書きされていた。
蓮(モノローグ)
(……“ホストの彼は、ほんとは笑うのが苦手だった”)
(“でも、ひとりの女の子の前では、うまく笑えた”)
ト書き:
ページの端に、“好きな人の笑顔が、演技じゃなかったらいいな”と小さく書かれている。
蓮(モノローグ)
(――それ、俺のことだよ)
(“演技”じゃなく、誰かの前で、笑えたら……)

〇ホストクラブ・フロア・翌日夜
ト書き:
客席で接客中、蓮がある客に「笑って」と求められるが、ふと表情が強ばる。
蓮(レン)「……ごめんなさい、今日は少し……」
女客「えっ、なんかテンション低くない? レンくんらしくない~」
ト書き:
女客の笑顔が冷え、スタッフがフォローに入る。
ト書き:
その場から戻った蓮が、バックヤードで俯く。
隼人「お前、演技やめた?」
蓮(レン)「……かもしれない」
隼人「じゃあもう“ホスト”じゃないな」
蓮(レン)「……」
隼人(肩をぽんと叩いて)
「でもさ。演技やめても残るもんがあったら、それが“地”ってやつだろ」

〇ホストクラブ・フロア・数日後の夜
ト書き:
店内。小春がドアを開けて入ってくる。
小春(モノローグ)
(やっぱり好き……! 好きな人の夢、応援したい!)
スタッフ「いらっしゃいませ。レンは本日――」
酔った客「てめぇ、ふざけんなよ!! 客になんだその態度は!」
ト書き:
騒然とするフロア。レンが、しつこい酔客に絡まれている。
腕をつかまれたその瞬間――
小春「やめなさーいっ!!」
ト書き:
男の背後から、小春がタックル → 背負い投げ → ドンッ!!
店内が静まり返る。
小春「暴力ふるうお客さんは、お客さんじゃありません!!」
「レン先輩に手出ししたら、わたしが許しませんからっ!」
隼人「……惚れるわ、これ」
スタッフ「一本!」
ト書き:
蓮は呆然としながら、小春を見る。その目が、震えている。
蓮(モノローグ)
(……俺のために、怒ってくれた)
(“演技”とかじゃなく、まっすぐに)

〇ホストクラブ・控室・その後
ト書き:
小春と蓮(レン)、ふたりきり。ソファに並んで座っている。
小春「だ、大丈夫でしたか?」
蓮(レン)「……うん。助かった。まさか君に、助けられるとは思わなかったけど」
小春「わたし、あれだけは許せなかったんです」
蓮(レン)「……ありがとう」
(小さく笑って、目を伏せる)
蓮(レン)「俺、1ヶ月以内にNo.1になる」
小春「えっ……?」
蓮(レン)「この仕事、向いてないなって思って、やめようかずっと悩んでた。でも――」
「さっき、君が“地”で投げてくれたのを見て思ったんだ」
「俺も、“地”のままで勝ってみたいって」
「やるならちゃんとNo.1になって、胸を張って次に進みたい。……ホストとしても、作家としても」
「……来月、文学賞の結果が出る。もし受賞できたら、作家としての一歩も踏めるかもしれない」
小春「……!」
蓮(レン)「だから、あと1ヶ月。俺なりに、全部やりきってみるよ」
小春「……かっこいい、です」
蓮(レン)「……君の“好き”が、もし今でも残ってるなら。1ヶ月後、もう一回聞かせてよ」
小春「……はいっ!」

TO BE CONTINUED…