〇大学・図書館・夜
ト書き:
静まり返った図書館。
蓮が、小春の落とした文芸部プリントを手にしている。
「ホストさまに恋をしました」の文字と、つたない挿絵。
蓮(モノローグ)
(……まさか、俺をモデルに書いてる?)
ト書き:
少し笑ってから、ふと顔をしかめる。
蓮(モノローグ)
(……だけど、あの姿は見せたいもんじゃない。とくに、あいつには)

〇大学・文芸部部室・翌日
ト書き:
小春が、昨日のプリントがないことに気づき、バッグをがさごそ探している。
運動部らしい素早い動き。
小春「うそ、あのホスト短編……ない! うっかり落とした!? 誰か見た……?」
ト書き:
そこに、蓮がスッと現れる。
蓮「……これ、落とし物?」
ト書き:
小春の手元に差し出されたプリント。固まる小春。
小春「っ! 見ました!? 見ましたよね!?」
蓮「読んだ。けど……ホストってのは、フィクション?」
小春「ひ、フィクションです! たぶん! いや、ちょっとノンフィクション気味かもですけど……!」
ト書き:
蓮が小さくため息をつく。
蓮「――見たいの? “レン”の姿」
小春「……え?」
蓮「店に来れば? ……来れるものならね」
小春 驚きでうまく声が出ない。
蓮 「後悔すると思うけどね」
ト書き:
目を伏せた少し薄暗く悲しげな表情の蓮は、ほんの少しだけ刺々しい。
小春が口を開きかけて止まり、ドキドキしたまま見送る。

〇大学・カフェテラス・夕方
ト書き:
友人たちとおしゃべり中の小春。だが、頭の中は“昨日の言葉”でいっぱい。
小春(モノローグ)
(先輩、絶対「来ないだろ」って顔してた! なんかムカつく!)
(……てか、正直ちょっと……見たいし……)
(どんな顔で、どんな声で、どんなふうに接客するの!?)

〇ホストクラブ・外観・夜
ト書き:
ネオンがまばゆいホスト街の一角。
看板には「CLUB FLEUR」――その前に立つ、小春。
緊張のあまり足がすくんでいる。
小春(モノローグ)
(やっぱムリかも……いや、でも、書くなら、見るしか……!)
ト書き:
意を決して扉を開ける――

〇ホストクラブ・店内
ト書き:
煌びやかな空間。香水とシャンパンの香り。
照明が落ち、ホストたちが笑顔で客を迎える。
小春(モノローグ)
(ひえええ……こ、ここが、夜の世界……!)
ト書き:
店内スタッフに案内され、半個室に通される。
と、そのカーテンの向こうから――
???「いらっしゃいませ、お姫様」
ト書き:
現れたのは、完璧なスーツ姿。
前髪を上げ、眼鏡を外した、“ホスト”の顔をした蓮――いや、“レン”。
小春「っ……せ、先輩……!?」
蓮(レン)「――あれ? 来たんだ。てっきり、怖気づくかと思った」
小春「な、なめないでください! ホストの接客、ちゃんと取材させてもらいます!」
ト書き:
気迫で蓮の言葉を押し切る小春。
蓮が少しだけ目を丸くして、そしてふっと笑う。
蓮(レン)「……意外と強いな、君」

〇ホストクラブ・半個室
ト書き:
グラスが置かれ、静かに注がれるノンアルドリンク。
レンはまるで別人のように、柔らかな笑みを浮かべて――
蓮(レン)「じゃあ、お姫様。“今夜だけは”君を特別におもてなししましょうか」
小春(モノローグ)
(先輩なのに、先輩じゃない――)
(この人、こんなにキラキラしてるの……ズルい)

TO BE CONTINUED…