そして選ばれたのが、なぜか新人のあたし。理由は、メンタルが強そうだったから。
……なんだその理由。
ふざけてんのか。
「っていうか部長……」
「ん?」
「あの、ここ女マネNGって書いてあるんですけど……」
渡されたばかりの社内資料。
百瀬悠のプロフィールや経歴、出演作品などが事細かに書かれた資料の注意事項欄には、はっきりと「マネージャーは同性に限る」となってる。
「まぁな」
「まぁなって、いやいや絶対まずいですって。誰が考えても分かりますよ。圧倒的に女性ファンが多いのに、若い女マネって……。これ、本人の了承取ってあるんですよね?」
「大丈夫大丈夫」
「なにがですか!」
「上の決定には百瀬悠も従わざるを得ないだろ」
「やっぱり了承取ってないんじゃないですか……」
「ほら、そろそろ出ないと間に合わないぞ」
「はい……? 間に合わないってなんの話ですか」
「ここ」
そう言って部長が指でトントンと紙を叩く。
「……今日から現場同行……? えっ⁉︎ 今日から⁉︎」
「詳細はメールに添付しといたから」
「いや、ちょっと――」
「そんじゃ、うちの看板俳優を頼んだぞ。ヘマだけはすんなよ。最短で交代とかマジ勘弁な〜」
……ちょっと待ってほんとに。
心の準備どころか、息継ぎすらできてないのに。
さっきまで社内でおにぎり食べてたのに。
それが突然――今日から現場同行?
……どうかしてる。
──こうしてあたしの、地獄みたいな日々が始まった。
