「えっ⁉︎ い、いど……」
口の中で言葉が迷子になった。暑くもないのに背中に汗がじっとりと滲む。
……聞き間違いであって欲しい。
「そう。異動」
「……」
……終わった。
願いも虚しく、部長はデスクの書類をトントン、と整えながら、さらなる爆弾を落としてきた。
「与波《よは》には今日から百瀬悠の担当に入ってもらう」
「……は?」
勢いよく立ち上がったせいで、イスのキャスターがギィっと鳴いた。隣の席の人がびくっとこっちを見て、目が合った瞬間そっと顔をそらされる。
……しまった。
けど、そんな事を気にしてる場合じゃない!
「あ、あたし、まだ今の部門に入って三ヶ月ですよ⁉︎」
「もう三ヶ月も経ったのか」
「はい⁉︎ 三ヶ月もって……あのですねえ! 三ヶ月なんて新人ですよ!? 現場で失敗しないように予習して、メモして、昨日も朝の五時まで寝ないで――それでもまだ全然ついていけてないのに! それなのに担当⁉︎ しかも百瀬悠⁉︎ あり得ないですって!」
「運が良かったな」
「どこがですか!」
「抱かれたい男ナンバーワンだろ。みんな羨ましがるぞ〜!」
「ならその"羨ましがってる誰か"の中から選んで下さいよ! あたし知ってるんですからね、百瀬さんの噂。顔は良いけど、性格に難ありだって――」
「それ、本人の前では口が裂けても言うなよ」
「……言えませんよ……」
部長の目が笑ってなかった。瞬時に口をつぐんだあたしは、ふぅと大きくため息をついた。
部長の話では、もともと百瀬さんの担当だったマネージャーが、急遽長期離脱することになって、誰か代わりを立てる必要があったらしい。
