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6月、梅雨入り。



電車に乗るだけで、人混みに入るだけで額に汗がじわりと滲む。
周りの人は、すかした顔して電車に乗ってるのが未だに不思議で俺は汗を拭う。

あァ、早く、梅雨なんて去ればいいのに。

──────── ポツポツと傘に当たる雨音も鬱陶しい。




【 〇番線に電車が参ります─ 】

ホームで端末を弄りながら電車を待っていると、数分後。電車のアナウンスが辺りに響き渡る。そのアナウンスを合図に学生、サラリーマン、OL、たくさんの人が電車に乗り込む。もちろん俺も。

「はァ…暑いし眠い」そんな事を脳裏に抱きながら座席に体重を預けて目を閉じる。毎日、毎日、この人混みを耐えて会社に向かう俺を誰か褒めてはくれないだろうか、なんて願望にも似た思いを抱いていると頭上から聞き慣れた声が降ってきた。



「────── モモ!モモ!」


この声。聞き覚えがある、否、鬱陶しいほど聞いている声色。
顔を見なくてもその声の主が誰なのかは明白で。
大袈裟な溜息と共に、眉に皺を寄せた不機嫌な表情で目の前の人物を見上げた。



『……はァ。朝っぱらから何やねん。人の名前何回も呼ぶなや。 』
「電車乗る時にモモの姿が見えたから」


俺に笑顔を向けそう話すのは、鬼島 茜莉(きしま せんり)。
俺の同僚で、何故か俺の周りをウロチョロしながら毎回告白をしてくる変な奴。

そして、モモというのはコイツが俺を呼ぶ時に呼ぶあだ名みたいなもん。
本名は、百舌鳥 蒼太郎(もず そうたろう)。たぶん百舌鳥の百から取ってる。知らんけど。

見た目は、黒髪に少し掻き分けられた前髪。猫みたいなツリ目に、高い鼻。身長もまァ高い…仕事も完璧にこなす。まさに女子の理想像そのものなんやろうな。俺は女ちゃうから気持ちは分からんけど。


「、モモ!聞いてる?」
『────… あ?何?』
「やから駅前にできた喫茶店、一緒に行けへんか?って」
『……なんで俺がオマエと行かなアカンねん。 一人で行け。 』



なぜコイツが俺に執着してくるのか、ホンマに分からん。
誰か理由を教えてくれ。