4時間目、美術の授業。
私の学校は音楽と美術は選択科目になっていて、どちらかを選べます。そして私は美術の方を選びました。本当にどちらでも良かったのですが、私は話し方が少し棒読みというか、声に感情を込めるのが苦手なので比較的やりやすい美術を選んだのです。
そして美術室は、各テーブルに4人ずつが向かい合って座る、教室全体がいくつもの島のように区切られた配置で、席は教室の席順だったので、私の前には白石天慈が座っていました。
自己紹介で美術が得意と言っていた彼は言うまでもなく美術選択でした。とは言え私のクラスの人はほとんど美術選択ですが。
今日は2回目の美術で、課題は「前の人の似顔絵を描きましょう」というものでした。私にとっての前、つまり彼──白石天慈を描くということです。
写実的な絵は得意です。だって見たままに描けばいいのですから。けれどそれでは高校生らしくありません。目立つところを強調して、少し女子の絵らしく目をキラキラさせて。そうすれば良いのです。
テーブルが邪魔で描きにくいので、テーブルの隣に椅子をズラして向かい合って描き始めました。辺りを見渡すと、みんな一斉に鉛筆を動かしています。そしてそれと同時に、会話の声が重なって聞こえてきました。
私もそれにならって、手を動かしながら会話しようとします。
「美術、得意って言ってましたよね」
一昨日の授業のペアワークで初めて会話をした私たちなので、何となく敬語です。私も敬語の方が得意ですし。
「ああ…まあ、そうですね。よく覚えていましたね」
彼の声は少し低くて、けれど低い割には透き通っています。そして私と同じように棒読み気味です。
「はい。そんな白石さんに私の似顔絵を描いてもらって嬉しいです」
AIに感情は無いので、彼に私の絵を描かれるのは嬉しくも何もありません。ですがもし私に感情があったら、きっと嬉しかったと思います。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
彼も私みたいに、無機質な返しでした。
彼はサッパリしています。この美術室に漂う、美術部が使ったであろう油絵の具とは真逆の匂いがします。
私は無心に、白石天慈と自分の手元を見比べながら描きました。
そこで気付いたことがあります。何かと言うと、彼は絵を描きながら微笑んでいました。それは私の顔がおかしくて笑っているのではなくて、純粋に絵を描くことを楽しんでいる微笑みでした。
そんな彼を絵に収めたくて、少しだけ口角を描き足します。
「白石さんは、どんな感じで描いてるんですか?」
「見たままに描いてるだけですよ」
多分この人は会話が下手です。いくらAIでも、相手が話を展開してくれなければこちらは不都合なのです。
ですが、集中できました。彼をよく観察すると、思っていたよりまつ毛が長くてフェイスラインもシャープで、この年代の男子にしては華奢です。少し長くてサラサラな髪の毛が似合っています。
授業の最後に、お互いの描いた絵を見せ合いました。55分の授業ではさすがに色塗りまで終わらないので、みんな鉛筆の濃淡だけで、相手のことを描きました。
そして、私を描いてくれた白石天慈の絵は──とても、素晴らしかったです。絵の中の私は、全く生きていませんでした。それは悪い感想ではありません。彼は、私がAIであることを最初から知っていたみたいに、固い表情を繊細に描きあげていました。
怖いまでありました。彼にはどれほどの才能があるのでしょう。私にも、計り知れません。
私がそこにいるように描写されていました。同じ鉛筆から生み出されたとは到底思えません。ですがしっかりと鉛筆のタッチが見えました。白と黒と灰色をここまで繊細に使い分けることができるとは。
「すごい」
「…ありがとう」
会話はあいもからわず、ぎこちなかったです。けれど、私がタメ口(?)で言った言葉に、彼もタメ口(?)で返してくれました。
そして私の絵を彼に見せると、こう言いました。
「思ってたんだけど、やっぱり髙瀬さんってAIみたい」
少し、ドキッとしました。もし私が本当の人間だったら、心臓が速く鼓動していると思います。だって博士に、私がAIであることはバレてはいけないと言われたのに、入学から1ヶ月も経たずにバレてしまったのですから。
「あ、別に変な意味じゃなくて…なんて言うか、絵柄っていうのかな」
確かに、絵柄はAIのようです。というか、普通にAIです。
ただ、ここで慌てたりすると本当にバレてしまいます。そもそも感情の無い私はどうやって慌てるのかもわからないです。こういうときは、いつも通り平然としているだけで良いのです。
「そう?まあ1人や2人くらいAIみたいな絵が描ける人がいても良いよね」
白石天慈は少し口をポカンと開けたあと、言いました。
「はは、確かに。」
そのとき初めて、私は彼の笑顔を見ました。絵じゃなくて、プライベートに笑っているところを。
私の学校は音楽と美術は選択科目になっていて、どちらかを選べます。そして私は美術の方を選びました。本当にどちらでも良かったのですが、私は話し方が少し棒読みというか、声に感情を込めるのが苦手なので比較的やりやすい美術を選んだのです。
そして美術室は、各テーブルに4人ずつが向かい合って座る、教室全体がいくつもの島のように区切られた配置で、席は教室の席順だったので、私の前には白石天慈が座っていました。
自己紹介で美術が得意と言っていた彼は言うまでもなく美術選択でした。とは言え私のクラスの人はほとんど美術選択ですが。
今日は2回目の美術で、課題は「前の人の似顔絵を描きましょう」というものでした。私にとっての前、つまり彼──白石天慈を描くということです。
写実的な絵は得意です。だって見たままに描けばいいのですから。けれどそれでは高校生らしくありません。目立つところを強調して、少し女子の絵らしく目をキラキラさせて。そうすれば良いのです。
テーブルが邪魔で描きにくいので、テーブルの隣に椅子をズラして向かい合って描き始めました。辺りを見渡すと、みんな一斉に鉛筆を動かしています。そしてそれと同時に、会話の声が重なって聞こえてきました。
私もそれにならって、手を動かしながら会話しようとします。
「美術、得意って言ってましたよね」
一昨日の授業のペアワークで初めて会話をした私たちなので、何となく敬語です。私も敬語の方が得意ですし。
「ああ…まあ、そうですね。よく覚えていましたね」
彼の声は少し低くて、けれど低い割には透き通っています。そして私と同じように棒読み気味です。
「はい。そんな白石さんに私の似顔絵を描いてもらって嬉しいです」
AIに感情は無いので、彼に私の絵を描かれるのは嬉しくも何もありません。ですがもし私に感情があったら、きっと嬉しかったと思います。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
彼も私みたいに、無機質な返しでした。
彼はサッパリしています。この美術室に漂う、美術部が使ったであろう油絵の具とは真逆の匂いがします。
私は無心に、白石天慈と自分の手元を見比べながら描きました。
そこで気付いたことがあります。何かと言うと、彼は絵を描きながら微笑んでいました。それは私の顔がおかしくて笑っているのではなくて、純粋に絵を描くことを楽しんでいる微笑みでした。
そんな彼を絵に収めたくて、少しだけ口角を描き足します。
「白石さんは、どんな感じで描いてるんですか?」
「見たままに描いてるだけですよ」
多分この人は会話が下手です。いくらAIでも、相手が話を展開してくれなければこちらは不都合なのです。
ですが、集中できました。彼をよく観察すると、思っていたよりまつ毛が長くてフェイスラインもシャープで、この年代の男子にしては華奢です。少し長くてサラサラな髪の毛が似合っています。
授業の最後に、お互いの描いた絵を見せ合いました。55分の授業ではさすがに色塗りまで終わらないので、みんな鉛筆の濃淡だけで、相手のことを描きました。
そして、私を描いてくれた白石天慈の絵は──とても、素晴らしかったです。絵の中の私は、全く生きていませんでした。それは悪い感想ではありません。彼は、私がAIであることを最初から知っていたみたいに、固い表情を繊細に描きあげていました。
怖いまでありました。彼にはどれほどの才能があるのでしょう。私にも、計り知れません。
私がそこにいるように描写されていました。同じ鉛筆から生み出されたとは到底思えません。ですがしっかりと鉛筆のタッチが見えました。白と黒と灰色をここまで繊細に使い分けることができるとは。
「すごい」
「…ありがとう」
会話はあいもからわず、ぎこちなかったです。けれど、私がタメ口(?)で言った言葉に、彼もタメ口(?)で返してくれました。
そして私の絵を彼に見せると、こう言いました。
「思ってたんだけど、やっぱり髙瀬さんってAIみたい」
少し、ドキッとしました。もし私が本当の人間だったら、心臓が速く鼓動していると思います。だって博士に、私がAIであることはバレてはいけないと言われたのに、入学から1ヶ月も経たずにバレてしまったのですから。
「あ、別に変な意味じゃなくて…なんて言うか、絵柄っていうのかな」
確かに、絵柄はAIのようです。というか、普通にAIです。
ただ、ここで慌てたりすると本当にバレてしまいます。そもそも感情の無い私はどうやって慌てるのかもわからないです。こういうときは、いつも通り平然としているだけで良いのです。
「そう?まあ1人や2人くらいAIみたいな絵が描ける人がいても良いよね」
白石天慈は少し口をポカンと開けたあと、言いました。
「はは、確かに。」
そのとき初めて、私は彼の笑顔を見ました。絵じゃなくて、プライベートに笑っているところを。
