この恋情は人工ではない

 ──「#0831、目を覚ましなさい」

 目を開けます。

 ──「よろしい。今から君を、人間の社会へ送り出そうと思っている。返事をしなさい、#0831。」

 ──「わかりました、博士。何でもやってみせます」

 ──「君は明日から、翠星(すいせい)高校の1年生だ。上手くやらなくていい、必ず戻って来なさい。私に作られた"AI"のお前なら、人間の社会がどのようなものなのか、言わなくてもわかっているだろう。」

 そう、私はAIです。
 人工知能搭載、言われたことは全部記憶に残り、全てにおいて完璧にプログラムされています。
 博士ならもう少し人間らしく、わざと失敗させるように仕組むこともできたのでしょうが…この実験は、完璧なアンドロイドがどこまで人間の社会に適応できるか、というものだと私には安易に理解できました。

 ──「はい。何も言われなくても、わかっていますよ」

 ──「そうだな。あと、期間は高校入学から1年間だ。それまでに必ずこちらに帰ってくるように。いくら人型AIでもバッテリーが切れたら動けないから、絶対に期限は守りなさい。そして、お前がAIなことは決して誰にもバレないように。」

 私の外見は、人間にしか見えないくらい精密に作られました。皮膚の感じも体型も顔つきも。顔面だけは博士好みの顔になりましたが。
 こんなにも人間らしい見た目をしているのに、何か交通事故に遭ったり強い衝撃が加われば私は壊れてしまいます。なんせ、中身は人間のように細胞や血液でできているのではなく、全て緻密な機械ですから。

 心臓は一定に動くようにできていますが、血液は全身を循環することなく、ただ運動しているだけです。
 呼吸はしません。呼吸っぽい動作はできますが、私には肺も横隔膜もありません。
 皮膚はゴム製で、それを剥がしてめくれば銀色の精密機械と歯車が回っています。
 
 だからもし、これから生活することになる学校で人工皮膚が剥がれるような怪我でもしてしまい、私の"中身"を誰かに見られたら、私の正体がバレてしまいます。

 ──「それじゃあ、行ってらっしゃい。」

 ──「行ってきます」