卒業式の日に好きな人の第二ボタンがほしい




 今日は卒業式。私は今日で、この中学校を卒業する。

 けど、その前に──


「おーい!政近!」

 卒業式が終わり花道アーチを抜けた後、私はキョロキョロと辺りを見回す。すると、後ろの方で誰かがその人の名前を呼んだ。その名前を聞くだけでドキッ、とする。後ろを向くと、少し離れた人の波の向こうにその人がいた。
 その人──平田政近君。私の好きな人。
 中2の時に同じクラスになって、一度だけ隣の席になって。私は男子が苦手だけど、平田君はとても話しやすくて、隣の席になってからは、平田君と少しずつ話しをするようになり、気づいたら冗談を言い合うほどになっていた。
 けど席替えした後は、殆ど話す機会もなくなった。平田君と話したいと思いつつ、けど私は引っ込み思案だから、用事がない限りは話しかけられなくて。目で彼のことを追うだけの日々を送った。
 そして平田君と殆ど話すことなく……気づいたら卒業式になっていた。

 告白したいけどきっと、平田君は私のことよく覚えてないだろうし。だからせめて、平田君の第二ボタンだけでも欲しい!けど、平田君は友達と一緒にいるし、どうやって声かけよう……

そう思いながら平田君のことを遠くから見ていると、平田君が友達から離れ、トイレの方に向かった。
 トイレで出待ちは嫌かなと思いつつ、私は傍にいた友達にトイレに行くことを伝えると、慌ててトイレの方に向かった。
 女子トイレの入り口傍の方に立ち、平田君が出てくるのを待つ。すると、トイレから平田君が出てきた。ここまで勢いで来たけど、いざ声をかけるとなると心臓が口から飛び出そうなくらいドキドキする。
 もたもたしていると、段々平田君がトイレから離れていく。

 このままでいいのか!?私!頑張れ私!

 内心で自身に言い聞かせながら、去り行く平田君の学ランの背の部分をぎゅっと掴み、そして。

「平田、君!」

 すると平田君は私の方に振り返り、驚いた顔をした。

「えっと……綾瀬さん?どうしたの?」
「あのっ私、その……平田君のことがずっと前から好きです!平田君の学ランの第二ボタンを下さい!!」

 ……は?

 今私、告らなかった!?

 つい勢いで告白してしまい涙目で動揺していると、平田君は第二ボタンを外し「はい」と、私にくれた。

「俺なんかのボタンで良ければ……っていうか、まさか綾瀬さんが俺のこと好きだったなんて。その、俺も前から綾瀬さんのことが──」

 
 桜舞う卒業式。

 これからは、平田君ともっとお話しできそうです。