環奈の一言目はまさにそれで、その瞬間にわたしは婚約者も親友も、失ったのだ。

しかも、同時に。

白いスウェード生地のトレンチコートに身を包み、お気に入りのロングブーツを履いて、高級ブランドのバッグを持っていても、わたしはみすぼらしく見えているに違いない。

心底信頼していた環奈も、大好きな亘も、わたしはいっぺんに失った。

ルイヴィトンのバッグの中の携帯電話が喧しく鳴ったのは、大通りを抜けて間も無くのことだった。

鼻水を流し、しゃくり声をあげて、わたしは携帯電話のディスプレイを睨み付けた。

亘からだったから。

後藤 亘

その名前を見た途端にわたしは、雪でシャーベット状になったアスファルトに叩きつけた。

消えてやる。

一生、二人を苦しめてやろうか。

今すぐ、この身を天に捧げ、消えてやる。

アスファルトに転がった携帯電話をブーツのヒールで踏みにじり、わたしは駆け出した。










わたしは成仏できずに、逹の悪い浮幽霊になるかもしれない。

だって、後悔だらけだもの。

海の防波堤の上に立ち、わたしはひっきりなしにしゃくり声をあげていた。