てっぺんにはスターの飾りが輝いていて、もみの木に数十分の天使が今年も風に揺れていた。

二十八歳のクリスマスイヴ。

わたしは空っ風にビュウビュウ煽られて、ツリーの真下で立ち尽くしていた。

二十時を過ぎた頃、ツリーを隔てた向こうのCDショップから、懐かしい音色が聴こえてきた。

パッヘルベルの、カノン。

そのオルゴール調の音に耳を澄ませて、わたしはクスクス笑った。

シンデレラを夢見てきたけれど、所詮、夢は夢。

やっぱり、夢は見るからこそ、いいものなんだわ、と思って笑った。

街中、幸せに満ちた恋人達で溢れ返っていて、甘い香りが漂っていた。

パッヘルベルのカノン、好きだって言っていたわね、隼。

会いたいわ、とても。

すごく、よ。

その時、わたしの鼻先を擽ったのは、森林のような清らかな香りだった。

わたしは、必要以上にどきどきした。

「ぼく、好きだなあ。カノン」

「……嘘」

「本当だよ。真央さん、元気だった?やっぱり、会えたね」

そう言って、呆然とするわたしに微笑んでいたのは、三年前とはほど遠い容姿の、隼だった。

ショートボブにしたわたしの黒い髪の毛が、つめたい空っ風に揺れた。

「髪の毛、短くしたんだね」

「ええ」

「すごく、似合ってる。すごく、だよ」

「隼も似合ってるわ、それ」

亜麻色の無造作にセットされていた髪の毛は、すっかり短くなっていて、黒く染まっていた。

左耳に光って揺れていたシルバーピアスも、今は姿も形も無い。