「若いから、ロマンチストなのさ」

隼はわたしのあごを静かに持ち上げた。

「待っていてくれる?」

「分からないわ。たぶん、待てないわ。わたしは、もう、二十五だもの」

「いや、待っていてくれるに決まってる」

「きっと、無理ね」

「ぼくには分かるんだ。なにせ、テレパスだからね」

ミステリアスな目が、わたしを羽交い締めにした。

深い、エメラルドグリーンの。

「ぼくは真央さんを好きだよ。とても、ね」

そう言って、隼はわたしにそっと口付けをした。

「来世も真央さんに巡り逢うこと、ぼくは知ってる」

呆然として目を丸くしているわたしに、隼はもう一度口付けをした。

「次に会った時、プロポーズさせて」

「待って!隼」

「その約束をしたくて戻って来たんだ。じゃあね、真央さん」

いつか、あのクリスマスツリーの下で、そう言って、信号がエメラルドグリーンに点滅している横断歩道に駆け出して、隼は走り去った。

「隼!待って」

わたしも公園を飛び出して、追い掛けた。

でも、信号は赤になり、走り出した車にクラクションを鳴らされた。

「隼!隼」

何度も何度も叫んだけれど、車のタイヤがアスファルトと摩擦する音に掻き消されて、彼には届かなかった。

隼は自分を、テレパスだ、と言った。

でも、それは嘘だったのだ。